第11話 皐月家へ
◇ ◇ ◇
そして数日後、凛空は快音に呼び出され、いわゆる快音の部屋というところに来ていた。
そこには快音はいなくて、一人の凛空の知らない男がいた。
その男からは、強い魔力を感じていた。でも、悪いような魔力ではなさそうだった。
雰囲気は少し怖い気もするが。
二分ほど待っていると、その部屋に快音が入ってきた。
「遅れてごめん。もう二人とも来てたんだね」
「ああ」
男は快音と普通に会話をした。二人にはかなり関わりがある。
「凛空、紹介する。こいつは、二年生で皐月家十四代目当主の息子の、皐月
「よろしく、風晴凛空くん。話は聞いた」
そう言って、夏唯は凛空に手を伸ばした。
「あ……よろしくお願いします……」
凛空はその手を握り、凛空と夏唯は握手をした。
凛空は、名前を知っていることに少し驚いたが、快音が繋いでくれると言っていたので、知っているものだと理解した。むしろ、知られている方が話を進めやすかった。
「うん。あと、敬語じゃなくていいから。一応、従兄弟だし」
「わ、わかった」
「改めて、よろしくな、凛空」
「よろしく」
夏唯は、待っている時の雰囲気とは違い、かなり人当たりが良いように凛空は感じていた。
そして凛空と夏唯は、皐月家の本家に向かった。
凛空の母と皐月家はかなり仲が悪い。父との結婚に反対された後、駆け落ちした。そんな人たちの子供が訪ねてくるというのも変な話だ。術式の前に、関係改善からになりそうだった。
夏唯は、外で誰が聞いてるかわからないところで教えたくないらしく、皐月家内でしか教えられないと言った。門外不出なのは凛空でも理解できるから、無理を言うつもりはなかった。
「現当主の名前は皐月
夏唯はそう言った。
心配してくれているようだったが、凛空にとっては、連絡してくれているだけでもありがたかった。
「大丈夫。ありがとう」
「いや……なんかさ、否定するわけじゃないけど、実際、凛空は何も悪くないわけだし……なのに、避けるとか、差別するとか、ちょっと違うと思うんだよね……」
夏唯は凛空を気にかけているのか、そう言った。
「俺は、生まれた時からそうなることが決まってた。もうしょうがないことだと思うから、受け入れて、その中でも頑張るよ。別に、変えられないわけじゃないし」
「……そうだね」
凛空はいつもより前向きだった。
魔術師として強くなりたいという気持ちが、それだけ強かった。
そんなこんなで、皐月家に到着した。
皐月家は、どちらかと言えば和風な家で、大きなお屋敷だった。
二人は、夏唯を先頭にその中に入っていった。
「お帰りなさいませ。お坊ちゃま」
入った時、入口近くにいた召使いのような人が夏唯に向かってそう言った。その言葉で、凛空は夏唯が当主の息子であることを再確認したような感じがした。疑っていたわけではないが。
夏唯はその召使いの方をチラッと見たが、何も言わずに靴を脱いで、家に上がった。
凛空は一礼してその後を追った。
「何か、変だよな。この年になってまで、坊ちゃまなんて」
「……言い換えが他にないから、変えようもないよ」
「それはわかってるけど……なんかなぁ……」
夏唯は少し不服そうだった。でも恥ずかしい気持ちは理解できる。
屋敷の廊下を進んで行くと、突き当りに扉があった。
夏唯はその扉の前で立ち止まり、一回息を吐いた。
そして顔を上げると、扉に手を掛けた。
夏唯はそのまま、横開きの扉をゆっくり開けた。
「失礼します」
「何だ。夏唯か」
中には一人のガタイの良い男と、召使いのような人がいた。
もちろん、夏唯を呼んだのは男の方だ。
「はい。以前ご連絡した通り、父上の妹のご子息を連れて来ました」
「私に妹なんかはいない。前も言ったが」
この男が皐月家十四代目当主の皐月玲磨だった。凛空の伯父にあたる人だ。
「まあ、話だけは聞いてやろう。入れ」
そう言われ、凛空は一瞬ビクッとしたがすぐに正気に戻り、二人は部屋の中に入った。
「名前は」
「風晴……凛空です」
「そうか……」
風晴という苗字に反応しているのか、玲磨は何かを思い出しているようだった。
「父上を裏切り、駆け落ちしたその息子が、何の用だ? アイツの使いか?」
玲磨は、一応妹である凛空の母の死さえ知らないようだった。
「……死にました」
「ん?」
「母さんは、死にました。父さんも」
「……なるほど」
間があったものの、すごく動揺したというわけではなかった。
魔術師としての死というのには慣れているようだった。
「それで?」
「えっ」
「まさかそれを言いに来ただけではなかろう。続きは?」
「えっと……皐月の術式を、教えてほしいんです」
「……」
玲磨はついに黙ってしまった。
「父上、僕からもお願いします」
夏唯はそう言ってくれた。
「……別に、教えるのは私ではない。君に適性があるなら、勝手にやればいい」
「本当ですか……!?」
「勘違いするなよ? 君を皐月家の当主継承順になんて認めたわけではないからな。ただ、術式を使うのは自由。ただそれだけだ」
「父上……」
凛空は、まさかそう言われるとは思ってなかった。
「風晴くん、君は魔術学園にいるのか?」
玲磨は凛空にそう質問した。
「はい。東京校に在籍しています。一年生です」
凛空は必要になりそうな情報をとりあえず話した。知られてはいけないような内容でもない。
「そうか」
玲磨は短くそう言った。何の意図があっても質問か、凛空には全くわからない。
「夏唯、責任をもって教えてやれ。適性があれば、だがな」
「わかりました。状況は随時、報告します」
「……勝手にしろ」
そして凛空と夏唯はその部屋を出た。
少し威圧感のある人だったが、それを貫禄とするのなら、特に悪い印象は受けなかった。凛空はそう感じていた。
「じゃあ、移動しようか」
「どこに?」
「練習場」
「練習場……」
そして二人はその練習場というところに移動した。
その練習場は、かなり頑丈そうな建物だった。家とは別になっていたが、同じ敷地内にあった。
天井は高く、縦横共に、とても広い。
「君に適性があるかはわからないけど、とにかくやってみよう」
「うん」
二人はその建物の中心辺りまで進んだ。
「まず、凛空のいつもの術式を見せてほしい。皐月の術式で一番最初にやる術式は、その人によって形が少し違うんだ」
「なるほど……わかった」
夏唯は凛空の返答を聞いて、少し離れた。
そして凛空は火蹴を発動させた。
でも、これってどうやって見せるんだ……? と凛空は発動させてから思った。
「えーっと、これで、こうやって、蹴る術式」
凛空は空振りで実演しながら、そう説明した。
「なるほど……」
夏唯はそう言った後、少し考え込んだ。
「じゃあ、まず、皐月の術式の一つ目、
その末、夏唯はそう言った。
そして夏唯は、右手に火の球を作り出した。
「
そう呟き、夏唯はそれを建物の壁にぶつけた。
轟音が響いたが、建物の壁には傷一つなかった。
「これが火生。凛空の場合は、球を蹴るとかっていう術式になりそうだね」
「そう……かも」
「とりあえず、やってみて」
「わかった」
凛空は夏唯に促され、それをやってみることにした。
「まず足に力を込める」
夏唯はやることを指示してくれるようだった。
凛空は足に力を込める。いつもの火蹴が発動する。
「それで、足の前に炎の球を作ることをイメージする」
指示通り足の前に炎の球ができる。
「それを火蹴で蹴るように蹴ってみて」
「火生……!」
凛空はそう呟き、その球を夏唯と同じように壁に向かって蹴る。
夏唯のような轟音は響かなかったが、それなりの威力があった。
「大丈夫? 凛空」
「うん。全然大丈夫」
「そっか。よかった。これで、消耗が激しかったら、適性がないってことになってたから」
「そうなんだ」
適正があったということなら、大きな一歩だった。
凛空の体感としても、そこまで魔力の消費が激しい感じはなかった。
消費が激しいと、この前みたいにすごく疲れが出るというか、とにかく苦しくなる。
今はそんな状況とは程遠いから、そういう状態ではないと思われる。
「今は使えないかもしれないけど、一応他の術式も教えとくね」
「うん」
夏唯は次の術式を発動させた。
まず、夏唯の周りを複数の炎の球が包んだ。
「
そう呟き、夏唯が片手を前に出すと、その球たちが曲線を描きながら、壁に術式が当たった。
さっきと同じように轟音が響いた。さっきよりも大きな音だった。
「これが、火操。火生を自由に操る術式」
「ほう……」
夏唯はさらに別の術式を発動させようとした。
いくつあるんだよ……皐月の術式って……と凛空は思った。声には出さないが。
「爆炎……!」
そして夏唯は、火生と同じように右手に火の球を作り出し、それを建物の壁にぶつけた。
壁に当たった瞬間に、その球は爆発した。それによって、さっきよりも大きな轟音が響いた。
「これが、爆炎。火生の何かに当たった瞬間に、爆発するバージョン」
「ほう……」
今のところ、全部火生の派生版だった。
「最後。これは、奥義みたいな、皐月の術式の中では最強の術式」
「最強の……術式……」
「空間創造……っていうやつ」
「空間……創造……」
「見ればわかるよ」
そう言って夏唯は、一旦目を閉じた。
そして目を開いた瞬間、すごい圧力のような、魔力の波動のようなものが発生した。いかにも最強の術式のようだった。
「空間創造……」
夏唯がそう呟いた瞬間、周りに炎の円のようなものが現れた。
なんとなく、凛空はそれがすごく危ないような気がした。
でもそれは、すぐに消えた。
「決めちゃうと、凛空死んじゃうから」
「なるほど……」
それは避けたいところだった。
「今のは、空間創造・
「……わかった」
もっと強い術式は、その分消費する魔力量が多い。つまり、その術式はかなり負担が大きい。六系家の術式よりも強い術式なのだから、それだけのことがある。
「一旦休憩しよう」
「うん」
そうして二人は、家の中に戻った。
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