第4話 魔力と術式

「そうだ、凛空、まだ感じるかな、ここの雰囲気というか、プレッシャーみたいなやつ」


 快音は凛空にそう聞いた。


「プレッシャー……」


 プレッシャーを日本語に訳すと圧力。

 快音が言うプレッシャーは、凛空が感じていた圧のような何かのことだった。


「……多分」

「じゃあ、やってみるか」

「えっ……?」


 快音は凛空の腕を掴み、どこかに連れて行こうとした。

 悠香は立ち上がり、凛空と快音の後を付いて行く。悠香には、何をするがわかっていた。


 そして連れて行かれた部屋には、大きな機械が一つだけ置かれていた。


「ここは……?」

「魔力測定室」

「魔力……測定……室……」


 魔力測定室は文字通り魔力量を測定する部屋だった。魔術師の強さの指標の一つである魔力の量を測ることが、魔術師への一歩だった。


「えっと、ここに手を乗っけてもらえれば測れるから……」


 そう言いながら、快音はその機械の電源を入れた。


「ちなみに、今まで心霊現象にあったり、危険なことがあったりしたことは?」

「うーん……」


 とりあえず凛空は覚えていることを振り返ってみた。でも、それらしきものは見つからない。


「……ない」

「そっか」


 準備ができたところで、凛空は、手のマークがあるところに、マーク通りに手を置いた。

 その横には何かが表示されるであろうモニターがあった。元々手を乗せているところもモニターみたいなパネルだが。


 そしてそのモニターには『850』と表示された。


「おー、なかなか多いじゃん。さすが皐月の血が流れてるだけある」


 快音はその数字を見てそう言った。結構多いみたいだった。


「でも、襲われた事無いんだ」

「うん」

「不思議だねぇ……」


 快音は機械の電源を切り、その部屋を出た。凛空と悠香もその後について部屋を出た。


「このあとは、凛空に術式を教えないとだね」


 快音はそう呟いたあと、「ついてこい」と言って走り出した。

 悠香は難なくその後を追っていく。

 凛空も後を追うが、追いつくどころか引き離されていくばかりだった。


 そして外のグラウンドのようなところに出た。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 凛空は息が上がっていたが、快音や悠香はビクともしていなかった。


「素で走ったら追いつかないよ。そりゃ」

「えっ……?」

「魔力を使って加速するんだ。まあ、今度教えるよ。まずは術式のこと」


 快音はそう言って、凛空と距離を取った。


「魔術の使い方の基本になるとこなんだけど、まず、全身の力を体のどこか一点に集める」

「ほう……」

「そして、魔力を当てる目標を明確に定める」

「うん」

「その集めたとこから目標に向かって魔力を出す」

「うん」

「これを応用して、いろんな術式を組む。慣れてくれば色んなことができるようになるよ。基本、イメージがしっかりしていればなんだってできる」

「な、なるほど……」


 凛空は一気に説明されて、全ては理解できなかった。


 術式は魔術師の数だけある。壮大すぎるかもしれないが、真実だった。


「じゃあ、やってみろ」


 快音は急にそう言った。


 いきなりの事に動揺したが、凛空は言われた通りにやってみた。

 でも、魔力を集めることはできても、うまく出すことはできなかった。


「君はゴリゴリの近距離戦タイプなのかな」


 快音はそう言った。


「どういう意味ですか?」

「パンチとかキックとかをメインでやるタイプなのかなって」

「はぁ……」

「じゃあ、それでやってみようか。しばらくは。いずれは、皐月の術式も使えるようになるかもしれないし」

「そう……ですか……」


 それから凛空は何度か試してみる。すると、足に炎を纏わせることができるようになった。

 そのことから、凛空の攻撃方法は、足に力を集めてそれで相手を蹴る。そんな感じになった。


 そして、凛空はそれを見つめる何人かのことを感じ取っていた。

 しかも、周りの感覚、五感のようなものの刺激が強くなっているような気がしていた。


 今まで感じなかった音が、騒音に聞こえる。

 喋り声が脳に響く。

 誰かの視線が突き刺さってくる。

 なんなんだ、この感覚は。


 凛空は思わずしゃがみこんで、頭を抱えてしまった。


「大丈夫? 凛空」


 悠香がそう言った。その声は、凛空の脳に響かなかった。

 悠香は今の凛空の状態を理解し、小声で話しかけていた。普通なら聞こえるか聞こえないかくらいの声だった。


「変な……感覚……全部が、大きく感じる……」

「覚醒したか。ついに」

「えっ……?」


 快音は凛空に近づいた。


「覚醒したら、やっと魔術師になったってとこだよ」

「えっ……?」

「それを制御できればいいんだけどな。時間はかかるよ」

「そう……なんだ……」

「それまでは、アレ使っとけばいい」


 快音がそう言うと、悠香が上から上着を掛けた。


「これで感覚は抑えておける。戦うときに外せばいい。段々いらなくなると思うから」

「はぁ……」


 凛空はとりあえず上着の袖に腕を通した。

 たまたま上着のフードが被さっていて、それによって感覚がすごく抑えられていた。


「これにはお兄ちゃんの術式がかかってる。これでかなり抑えれれるよ」

「なるほど……」


 悠香の兄、恐るべし。


 凛空は感覚が落ち着いたことから、なんとか立ち上がった。


「どう?」


 本当にさっきより良くなっていた。全然気にしないほどに。


「ヤバい……悠香の兄ちゃん、すご……」

「そうでしょー」


 悠香は嬉しそうだった。


 凛空は辺りを見回してみたが、周りに三人以外の人はいなかった。


 凛空はさっきの視線が何だったのか、すごく疑問に思った。


「どうしたの?」

「いや……なんか……さっき視線を感じてたんだけど……」

「あー、それ多分二年生だよ」

「そうなの?」

「うん。見に来てたんじゃない? 新人はどんな感じなのかなーって。お兄ちゃんの指示かもしれないし」

「へぇ……」


 二年生が見てたというのは有り得ることだが、指示とは、悠香の兄は全く何者なんだ。

 凛空はそう恐怖のようなものを感じた。


「じゃあ戻るか……一応高校だしさ、授業ってものもあるわけだし」


 快音がそう声を掛け、凛空たちは教室に戻った。



「あ、俺は授業しないよ?」

「えっ?」


 廊下を進んでる時、快音はそう言った。


「俺、担任じゃなくて、担当だから」

「え、あ、ん?」

「授業は、免許持ってる人の授業を配信で繋ぐ。そういうのが授業だから。さすがに、魔術師に教員免許取る時間はないよ」

「へぇ……」


 魔術学園はかなり特殊だった。


 快音は魔術師としての技術などを教える、魔術師としての先生のような立ち位置。学校の先生とは少し違っていた。



 教室に戻ると、タブレットが渡される。これは入学経費から引かれていたもので、正真正銘、本人の所有物。制服がない割に、入学経費が高かった理由はこれだ。

 これで授業の記録を付けたり、仕事で学校にいなくても授業単位を取れるように、授業配信を見れたりする。かなり現代的で、最先端。中々無いようなものだ。



「あ、あの……!」

「ん? どうした? 凛空」

「俺が感じてた、圧力とかって、何だったの……?」


 さっきから話には出るのに一向に教えてもらえないことから、凛空はいっそ聞いてみることにした。


「それは、魔力だよ。この学園内にいる人の」

「魔力……」

「結界によって、この敷地内から魔力が外に漏れ出すことはない。だから、みんな隠す気が無い。それで感じたんだと思う。まあ、そのうち慣れるっていうか、気配として割り切れるようになる。そんな気にすることもないよ」

「そっか……」


 気にすることないと言われても、気にしないのはしばらく難しいだろう。慣れるのも。



「じゃあ、そのうち実戦も教えるから、覚悟しとけよ」


 快音はそう言った。


 凛空はそんな覚悟が必要なところなのかと驚いてしまうが、命を落とす可能性があることを考えれば、覚悟は必要なことだった。


 一方悠香はそれを聞いて動揺も何もしていなかった。さすがというべきか。まあ、悠香は実戦には慣れているのだが。


「まあ、俺も一緒だからそこまで覚悟しなくて大丈夫だよ。気楽に行こ」

「おーっ!」


 悠香は乗り気だった。凛空はそこまで気楽にはなれそうにない様子だが。

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