第3話 魔術師としての一歩
あれから数週間後。
「凛空、久しぶり」
「うん……久しぶり」
4月になり、しばらく見ないうちに学校の周りには桜が咲いていた。
今日から凛空はこの魔術学園の生徒となり、魔術師としての一歩を踏み出すことになる。
凛空は悠香と校門前で集合する約束をしていた。
その約束通り、悠香は校門のところで待っていた。
あれから電話で連絡をされるついでに何度か喋ってはいるが、やっぱり直接会うのとは違うと感じていた。
凛空と悠香の話は、まだぎこちない感じがしていた。
その状況を作っているのは凛空だったが。
「どうだったの? 辞められたの? 学校」
「あーうん」
元々合格していた学校は、快音のあの電話のあとからスムーズに進み、さすがに色々な返金は無かったものの、入学は取り消しできていた。代償として使いもしない制服が届いたが。
この数週間、凛空は入学取り消し手続きの他に、引っ越しの手続きなどもしていた。
そして、両親の死が、現実的なものになった。
凛空は、両親の遺体と対面した。
それは確実に両親だった。顔はどちらもそっくりだし、父の生まれつきという腕の傷もあったし、母の昔の事故によるものという首の傷もあった。
その時、凛空は人生で初めて泣き崩れた。誰が見ているのかも気にせずに。
あれは一生記憶に残る瞬間だろうと凛空は思っている。
そして、死を受け入れて、この世界に身を投じることを決めた。
――両親が見た世界を見てみたい。
最初はそんな興味本位だったけど、今は少し、同じような思いをする人を少しでも減らしたいと思うようになっていた。
柄に合わないというのは本人もわかってるけど。
凛空はあの家(部屋)を解約し、家具を売り払い、大事なものや残しておきたいものだけは魔術学園の寮に一つ部屋を借りて置かせてもらうことになった。
ちなみに魔術学園は完全寮制だった。
「そうだ。一応言っておくけど、今年入学なの私たちだけだからさ」
「そうなの?」
「うん。転入はあるかも知れないけど、今のところ、六系家とかの情報もないし」
「なるほど……」
悠香がそう言うならそうなんだろう。と凛空は疑いもしなかった。
「でも、二人なんて、普通だから」
「そうなんだ」
「うん。魔術学園には、ここともう一個あってね。分かれちゃうから、人数少ないんだよね」
「なるほど……そのもう一個って、どこにあるの?」
「大阪。こっちが東京校で、あっちが大阪校」
「へぇ……まあ、東京に来れない人もいるだろうしね」
「うーん……」
悠香の反応が悪くなった。凛空はそれに不安を覚えた。これがぎこちない証拠だった。
「大阪と東京で、仲が悪くなりがちな六系家が分かれて在籍してる。半分がそれで、半分が元々の居住地。一応、付け加えとくとね」
「なるほど……俺はよくわかんないけど、母さんが仲悪かったのもあるし……」
「まあ、最近はわかんないけどね」
「ふーん……」
凛空に六系家の事情はわからない。でも、悠香の話の雰囲気が変わったことから、悠香は家の事で何かあったのか、結構深刻な問題みたいだった。
そして二人はそう話しながら、一年生の教室まで来た。
教室に入ると、そこには机と椅子が二セットだけ置かれていた。
本当に凛空と悠香の二人だけみたいだった。
「どっちがいい? 凛空は」
悠香は机を指差して、凛空にそう聞いた。窓側か、廊下側かを聞いてきていたようだった。
「どっちでもいい。悠香が選ばなかった方で」
「じゃあ、私窓側でいいかな」
「ああ」
そして二人はそれぞれの机に荷物を置いた。
この学校に足を踏み入れた時から、凛空はやはり奇妙な感覚に襲われていた。
最初の時も、今日も。
未だに何なのかわかっていない。でもここに来た時だけ、それを感じていた。
その時、教室のドアが開いて、鳴宮が入ってきた。
「おう、もう揃ってたか。待ち合わせでもしてたか?」
「一応ね。一人で教室で待ってるなんて、寂しいし」
「なるほど。言ってくれれば、俺が早く来たのに」
「それだったら、凛空が後で来て、申し訳ないとか感じられちゃうでしょ?」
「そうだな……まあ、さっき帰ってきたばっかだから、言われても無理だけど」
「じゃあ提案しないで」
「はいはい」
二人の言い合いを凛空は見ていることしかできなかった。
凛空は二人のテンポに付いていけなかった。
凛空がポカーンとしていたのを見て、鳴宮はニコニコしていた。
「な、なんだよ……」
「いや。なんか、可愛いなって」
「は……?」
凛空は少しムカついた。
「改めて。一年生担当鳴宮快音です。よろしくな、悠香、凛空」
「よろしくー」「よ、よろしくお願いします……」
鳴宮が改めて自己紹介をしたことによって、さらに目上の人感が増していた。
「凛空、俺の事は快音でいい。みんな快音くんとか呼んでるし、魔術師に鳴宮っていっぱいいるからさ。それに、敬語は邪魔だから使わなくていいし」
「わ、わかった」
凛空は快音くんと呼ぶことにした。さすがに呼び捨てにする勇気はない。
それでも悠香と快音の関係は、凛空とは違っていた。それは同じ六系家なら当然なのかもしれないが、ただの同業者という関係ではなかった。
「凛空、なんか無駄なものできちゃったみたいでごめんな」
快音は急にそう呟いた。
「無駄なもの……?」
「入るはずだったところの制服とか」
「あー……それは、大丈夫」
凛空は無駄になるのはしょうがないことだともう割り切っていた。だから全然大丈夫だった。
「うちは制服ないから、着てもいいよ? 着たかったら」
「いや別に。そんなに制服が気に入って入ったわけじゃないから」
「へぇ……」
制服で選ぶなら、普通はその学校は選ばれない。その高校は、制服がダサいと言われていたようなところだった。
凛空がなんでそこを選んだかは、偏差値と大学進学率。思いっきり将来のことを考えて選んだ。それは両親の意向だったけど、文句はなかった。
「っていうか、制服無いんだ」
「うん。なんかさ、制服って、動きにくくね?」
「まあ……確かに」
確かに動きにくいと言われれば凛空も納得だった。
「
「へぇ……」
なるほど。そういう理由があるのか。と凛空は理由まで納得していた。
「私はこっちがデフォルトで、外に出るときははお兄ちゃんが作ってくれた上着着てるの」
悠香が続けるようにそう言った。
「ん、ん?」
「学校外に出るときは、できるだけ自分の魔力を隠したいわけ。特に、魔術師でもない人と会う時は」
「何で?」
「怪物が寄ってきたりすることがあるの」
「へぇ……って、お兄ちゃん……?」
「うん。ここの二年生に私のお兄ちゃんがいる。まあ、ほぼ学校にはいないけど」
「そうなんだ」
悠香には兄がいる。それは別に変なことでも、特別なことでもないが。
「お兄ちゃんはすごい魔術師で、私がまだ自力で魔力を完全には隠せないから、その補助術式をかけてくれてる服があれ。お兄ちゃんは、どんなに離れても、術式を継続できるの」
「へぇ……」
凛空はあまり理解できていないようだった。
「すごいやつ? 継続って」
「もちろん」
凛空の質問に答えたのは快音だった。
「快音は、魔術師の中のランクで四人しかいない、一番上のランクにいる魔術師。あ、お兄ちゃんもそうだけどね」
「えぇ……」
快音がそんなすごい人だったのに凛空は驚いたが、悠香の兄が高校二年生でそこのランクにいることもすごいと思った。六系家という名家の力を見せつけられたようだった。自分も一応六系家なのだが。
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