第2話 魔術師

「魔術師は、見えないものが見えて、その見えないものと戦うのが仕事だ」

「見えない……もの……?」

「そうだ」


 見えないものとは何だろう……?


「具体的には?」

「簡単に言えば、悪霊とか、呪いみたいなもの。それに憑りつかれたりした人間も含む」

「悪霊……」

「俺たちはそれを分かりやすく、『怪物』と呼んでいる」

「怪物……」


 確かにわかりやすい。

 けど、鳴宮はそいつと戦うと言った。どう戦うんだ……?


「俺たちは、その怪物と術式で戦う。だから、魔術師だ」

「なるほど……」


 鳴宮は凛空の思考を読んでいたかのようにそう解説した。


 父さんや母さんもそうやって戦ってたのか……?

 凛空の中に、そんな疑問が浮かんだ。


「どうする? なってみる? 魔術師に」

「……」

「両親が見た世界を見てみないか?」


 両親が見た世界……


「……見て……みたい」


 今まで知らなかったからこそ、凛空は素直にそう思った。


「そうか。じゃあ、早速行くか」

「どこに?」

「魔術学園に」

「魔術……学園……?」


 凛空はその流れのまま、魔術学園というところに連れていかれることになった。どうやら、拒否権はないようだった。


「あと、魔術師のことは、秘密な。これは絶対だから」

「わ、わかってる。最初の条件だっただろ」

「そうだったな」


 そして凛空は、どこか知らない場所に連れて行かれた。


 東京にこんなところがあるのかと言いたくなるような森林の中。でも、場所的には田舎なわけではない。そんな場所にあったのが、鳴宮の言う魔術学園だった。


 学園という名の通り、見た目は学校だった。それも、少し洋風な建物。誰もが憧れるような校舎というのがその校舎の第一印象だった。


「そうだ、君今何年? 何歳?」


 鳴宮はその魔術学園の校門らしきところの前で立ち止まり、凛空にそう聞いた。


「え、えっと……中三で、一昨日おととい卒業式でした」


 凛空が両親としていた約束というのが、この卒業式だった。凛空は来なくていいと言ったが、行くと約束されていた。


「おー、じゃあ、俺の担当じゃん」

「え?」


 俺の担当……とは?

 凛空がそんな疑問を浮かべていると、鳴宮は改まって凛空の前に立った。


「ようこそ、魔術学園高等部へ。六系家ろっけいけ鳴宮家当主兼、魔術学園高等部次年度一年生担当の、鳴宮快音です」


 情報量が多くて、凛空は理解に時間がかかった。


 整理すると、凛空は魔術学園というこの学校(?)に入学させられかけてて、仮に入学したら鳴宮は先生となり、そして鳴宮は六系家という家の一つの家の当主であるということだった。


「情報量が多すぎるけど……まず、六系家って何?」

「あー……ほんとに何も知らないんだ」


 何故か凛空は呆れられた。


「六系家っていうのは、魔術師の名家の総称。朝吹あさぶき皐月さつき・鳴宮・香月かつき五宮いつみや桜花おうかの六つの家のこと」


 皐月……って、母さんの実家っていう、あの皐月か……?

 凛空は瞬時にそう思った。


「君のお母さん……凛音さんはこの皐月家の人。つまり、君も皐月家の血を引く者」


 そんなすごい家系だったのか……母さんは……と凛空は改めて尊敬した。


「だから君はすぐに術式を使えるようになると思う。魔力量も多いみたいだしね」

「ま、魔力量……?」

「魔力は、術式を発動させるときに消費されるエネルギー。その量は、親からの遺伝。多ければその分大きな術式が発動できる」

「なるほど……」


 そこまで説明されたところで、凛空は魔術学園に足を踏み入れた。

 その瞬間、凛空は何か圧のようなものを感じた。今まで感じたことのないような何かだった。それが何なんだか、凛空はわかっていないが。


 凛空はそれに思わず立ち止まってしまった。


「感じたか。ついに」


 鳴宮は振り返り、凛空の事を見てそう言った。


「やっぱ皐月の血は流れてたな」


 鳴宮は凛空に近付きながら、そう続けた。


「……ここはどこなんだよ。それで、何なんだよ」

「ここは魔術学園。魔術師になる学生が集まるところ。ちゃんと高校卒業資格にもなる」

「ほう……」

「ちなみに俺はここの卒業生」

「なるほど……えっ」


 こいつ何歳だ?

 凛空はそんなことを思ったが、口には出さなかった。

 まあ、そこまで驚くようなことでもないと思うが。


 そして凛空は鳴宮に連れられて、その魔術学園の校舎の中に入っていった。

 校舎の中に入ったところで、女の子とは別れた。


 校舎の中は見た目から想像できるような内装そのままだった。そしてその校舎の中の、学校の廊下とは思えない廊下を進んでいき、とある部屋に通された。


 その部屋には、机と椅子と、ソファと本棚と、その他色々が置いてあった。


「君には、春から魔術学園の生徒になってもらう。それが君が魔術師になる近道だからね」

「な、なるほど……」


 元々決まってた進路があったんだけど、この際しょうがないか。と凛空は決意を固めた。


「魔術師の具体的なことは、入学後に教える。手続きは今すぐにでもできるけどどうする?」

「入学辞退なんて、できるのかな……?」

「両親の死去により、居住地が変わるため、通学が困難になりましたって」

「なるほど……」


 確かにそれなら辞退できるかもしれないと凛空は納得した。


「……多いの? こういうこと」

「まあな。魔術学園なんて、転入多いよ。最近はそうでもないけど、俺の時は多かった」

「へぇ……」


 それはもう多いって言わないのでは……?

 凛空はそうツッコミを入れようかと思ったが、言って変わるものでもないからそこでとどまった。


 そして鳴宮は一枚の書類を出してきた。

 その書類は、入学書類のための書類のようだった。

 とりあえずその内容に目を通し、凛空は書類にサインをした。


「親のサインとか、書くところ無いんだな」

「そうだな……君みたいな人が多いから、無駄に印刷するよりいいかなって。まあ、サインの場所がある紙もあるけどな」

「そうなんだ……」


 もしこの人が先生となるなら、敬語の方がいいんじゃないのか……?

 凛空は今になってそう思った。


 でも今になって変えるのも何か違うような……どうしたらいいんだか……

 凛空がそんなことを考えていた時、鳴宮がどこかに電話をしていることに気づいた。

 そして電話を切り、凛空の方を見た。


「君の学校には話を通しておいた。今度行って書類書いてこい」

「え、いつの間に……? それに、何で知ってんの? 合格したところ……」

「この前呟いてた。数日前に」

「え」


 確かに凛空は歩いてる時に友達に話していた。でも、周りに人はいなかった。何で知ってるんだと、凛空は鳴宮を怪しんだ。


「で、書類書いてこい。わかったな?」

「え、あ、うん」


 凛空がそう返事をしたところで、その部屋のドアが開いて、誰かが入ってきた。


 入ってきたのはさっきの女の子だった。でも、服が制服のようなものに変わっている。制服といっても、ブレザーとスカートだったり、セーラーだったりという感じではないが。


「お、来たね」

「うん。それで? どうなったの?」

「入学決定」

「そっかぁ」


 女の子はさっきまでの無口少女とは違い、結構喋っていた。


「快音は担当なんでしょ? 一年の」

「ああ」


 まさかの名前呼び。しかも呼び捨てだった。


「自己紹介したら? 困ってる」

「あ……そうだった」


 そう言うと、その女の子は凛空の前に来て、目を合わせてきた。


「えっ……」


 凛空はその状況に少し動揺していた。凛空にずっと一緒に居るような友達はいない。普通のいざとなれば喋れる奴はいたが、あまり人と話すことはなかった。

 ましてや、女の子と目を合わせて喋るだなんて、何年ぶりだろうか……というくらいだった。


「私は朝吹悠香ゆうか。私も次、高等部一年なの。よろしくね」


 まさかの凛空と同級生だった。

 しかも朝吹って、こっちも六系家のようだった。


「え、えっと……俺は、風晴凛空。よろしく」

「よろしくねー」


 そう言って悠香は、凛空の手を掴んだ。

 その瞬間、凛空は衝動的に立ち上がってしまった。


「あ、私のことは、悠香でいいからね。あとこっちは凛空って呼ばせてもらう」

「わ、わかった」


 握手が終わって、お互いに適度な距離を取った。


「悠香の朝吹家は、魔術師の始祖だから、凛空、頑張って付いて行けよ?」

「え、あ、はぁ……」


 朝吹家は魔術師の始祖で、悠香はその始祖の子孫。魔力量は遺伝性で、魔力量が多ければ多いほど大きな術式が発動できる。大きな術式が発動できる魔術師は強い魔術師となる。

 悠香はこの話だけでもすごく強そうだった。

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