ソーサラーワンダー―普通の高校生が最強の魔術師になるまで―

月影澪央

1.運命が変わる瞬間

第1話 運命が変わる瞬間

 ピンポーン


 マンションのとある一室のインターホンが鳴った。


 その部屋には、一人の少年がいた。


 宅急便か……?

 少年はそんなことを思いながら、インターホンのモニターがある方に向かって行った。


 ちょうど彼が休みで家にいたからよかったものの、彼の両親はそんなこと知らないだろう。果たしてどうするつもりだったんだか……


 彼の両親は仕事でいないことが多かった。だから今日だって彼は一人だった。

 家で過ごすこともあまりなかったためか、両親は家を持たず、彼は一軒家に住んだことが無い。

 だが彼は、マンションだから困ったなんてことは無い。だから文句も無い。



 そして彼はインターホンのモニターを見た。

 そこに映っていた人は、全く知らない人だった。見た目大人の男性と、同い年くらいの女の子。その二人が映っていた。どう見ても宅急便ではない。


 彼はエントランスのインターホンで部屋番号を間違えたという可能性を考えた。それが一番妥当な考えだった。


 それを確かめるためにも、彼はとりあえず出てみることにした。

 彼はモニターの通話ボタンを押した。


「はい」

『あ、風晴かぜはる凛空りくくんですかー?』

「えっ……」


 その男が言った名前は、彼の名前だった。


 なんでこいつ、俺の名前を……と彼は恐怖を感じた。

 急に訪ねてきて、自分の名前を知っている。よくいるような名前でもないのに。


『あれ、もしもーし』


 男はそう呼びかけてくるが、凛空はどうしていいかわからず、何も返せないでいた。


『風晴偉空斗いくとさんと風晴凛音りんねさんの息子さんの、風晴凛空くんいますか?』


 男はさらにそう言った。


 男が言った名前は、凛空の両親の名前だった。


 何でそこまで知っているのか。考えてみると、ここまで知っているということは、知り合いの可能性も高いと凛空は考えた。仕事の関係か何かか。


 疑いつつも、まだエントランスにいるから今すぐに襲われたりなんてすることはないと考え、凛空は受け答えすることを決めた。


「だ、誰ですか?」

『あー、僕は偉空斗さんと凛音さんたちの仕事の後輩の、鳴宮なるみや快音はやと申します』

「こ、後輩……?」


 凛空の質問に、男はそう答えた。


 凛空は両親がどんな仕事をしているのかは知らない。でも、同じ職業で、そこで出会って結婚したというのは知っている。

 二人の後輩と言っていることから、言っていることは合っているっぽいが、凛空はそれを信じていいのかわからなかった。


『はい。後輩です』

「……今、両親はいません。何の用ですか……?」

『ちょっと色々ありまして……お話があります』

「話……ですか」

『はい』


 話とは何だろう。と凛空は疑問に思った。


 仕事の話なら凛空にする話ではないし、今の時代、色々なツールがあるわけだし、わざわざ家に来てまでする話とはどれくらい重大な話なのだろう。

 なんとなく、凛空は興味が湧いてきていた。


「わかりました。じゃあ、外のどこかの店か何かで話しましょう」

『はい。じゃあ、外でお待ちしてますねー』


 凛空はそう言ってモニターの電源を切った。


 誰なのかわからないから、家に入れるわけにはいかない。でも、興味があった。

 凛空は、両親の仕事のことについて一切聞いたことが無かった。だから素直に聞いてみたいとも思った。


 そして凛空は財布と携帯などをポケットに突っ込み、家を出た。もちろん鍵は閉めた。


 数分後、エレベーターを降りてエントランスに出ると、さっきの二人が待っていた。


「お、来た来た」


 そう言いながら、男は凛空に近づいてきた。


「改めて、初めまして。鳴宮快音です」

「えっと……風晴凛空です」

「よろしくねー」


 凛空は男とそんな言葉を交わした。

 同い年位の女の子の方はまだ喋らない。


 そして凛空たちは近くにあるチェーン店の喫茶店に入った。


 凛空がそこに個室的な奥まったところがあることを言うと、鳴宮はそこで話すことを快諾した。そんな事情でその店に入った。


 ちょうどその場所が開いていたらしく、鳴宮がそこを指定すると、店員はそこに通してくれた。


 注文を済ませ、数分で注文したものが届いた。

 そして、段々と話を始める雰囲気になって行った。



「それで、話ってなんですか」


 凛空は思い切って自分から聞いてみた。


「えっと……結構、苦しいというか、重い話なんですけど……」

「はい」

「偉空斗さんと、凛音さんは、亡くなりました」

「えっ……」


 は? どういうことだよ。

 亡くなったって、どうしたらそういうことになるんだよ。

 それに、なんでこんな知らない人の口からそんなことを聞かされるんだよ。

 なんで……なんで……?


 凛空は頭を抱えて俯いてそんなことを頭の中でずっと連呼し続けた。



「大丈夫……? じゃ、ないよね」


 女の子の方が凛空にそう話しかけた。


 凛空は思わず顔を上げた。初めてあの女の子が声を出したからだ。



「……でも、何であなたがそんなことを……? 普通、警察とか病院とかじゃないんですか」


 凛空はなんとか心を落ち着けて、そう聞いた。


「そうなるよね」

「え?」


 鳴宮はこうなることを予想していた。


「君が、両親の仕事を知りたくて、そのことを知っても、黙っててくれるならいいよ」

「どういうことだよ」

「聞けばわかる」


 聞けばわかるってどういうことだよ。

 凛空はそう思ったが、ここで了承しないと何も進まないような気がした。


 仮に死んだとしても、理由がわからなきゃこの先ずっとわからないまま引きずることになる。鳴宮の話が嘘だとしても、聞いておいて損はないだろう。

 凛空の両親が家を空けることはあっても、今日までのこの日数は変だった。長すぎると凛空は感じていた。

 それに、凛空には両親と約束をしていた予定があった。それを連絡なしに破った。これは初めての事だった。


 この状況を加味すれば、前者(死んでいる)と考える方が可能性としてありそうだった。

 できればそんなことは考えたくないが。


「……わかった」


 凛空は葛藤の末、鳴宮が出した条件を了承した。


「じゃあ、話をしよう」


 鳴宮はそう言うと、急に改まった感じになった。それほどの話なのだろう。


「信じてもらえないかもしれないけど、君の両親は魔術師だ」

「は……?」


 凛空は反射的にそんな声を漏らした。


「な、なんだよ、魔術師って。いるわけないだろ、そんなの」

「そうなるのはわかっている」


 鳴宮はすごく冷静だった。


「君の、お祖父さんたちにあたる人は、片方が死に、片方が疎遠状態にあった。君は知らないだろう? 自分の親の親や、従兄弟のことを」

「確かにそうだけど……」


 鳴宮は凛空の家のことをすごく知っていた。怖いくらいに。


「君のお母さんは、魔術師の中でも名家の皐月家に生まれた。それで、君のお父さんとの結婚に、皐月家は反対で、それで疎遠となった。ちなみに、お父さんは今の君と同じような状況だったところから、魔術師になった」


 でも、そんな証拠はないだろ。

 凛空はそう言いたかったけど、それを違うと証明できるものもない。


 凛空は両親以外の家族(親戚)は知らない。だから、祖父母がどうとかということもわからない。だから、反論もできない。


「……まだ信じるわけじゃない。でも、何でお前がそんなことを言いに来るんだ?」

「それは、君が魔術師を知らないように、世間は魔術師を知らない。だから、こういう話は、魔術師が向かうことが多い」

「……なるほど」


 なるほど……じゃないだろ!

 凛空は自分にそうツッコミを入れた。


 だからと言って、なんとも言えない。凛空は戸惑っていた。あまりにも非現実的というか、とにかく信じられなかった。



「それで、これが、所持物」


 鳴宮は透明な袋に入ったものを二つ凛空の前に差し出してきた。中に入っていた服には血痕が付いてるのが見える。

 凛空は恐る恐るその袋に手を伸ばし、それを受け取った。


 確かにあの日、凛空の両親が持って行ったものが入っていた。


 それに、服の血痕は見間違いなんかじゃなく、それも広範囲に付着していた。


 これが現状ある唯一の証拠だった。


 認めざるを得ない状況になりつつあった。

 簡単に認められるものじゃない。

 でも……


 凛空の心境は複雑だった。



「どうしたらいいんだよ……このあと」


 凛空は思わずそう呟いていた。


「そこで一つ。君に提案がある」

「え……?」


 言っても無駄だと思っていたため、予想外のことに凛空は驚いていた。


「君も魔術師にならないか?」

「は……?」


 凛空は一瞬何を言っているんだと思った。


 でも、よく考えてみると、何か近づけるような気がしていた。死んでいるとしても、生きていたとしても、真相や理由について。


「……いや、詳しく教えてくれ。その、魔術師ってやつを」

「ああ」


 鳴宮はそう短く返事をした後、一度深呼吸した。

 その瞬間、場の重たい雰囲気が少し変わった気がした。

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