閑話

第38話 竜人のダンジョンライフ


 〇エールのわくわくクッキング〇


 まずは材料をそろえます。

 1)ドラゴン姿になります。

 2)その辺に生えている麦を踏みつぶして、麦の粉を手に入れます。

 3)その辺を歩いている鶏を踏みつぶして、卵を手に入れます。(鶏肉しかでない時は次の日まで待ちます)

 4)クラーケンを捕まえて陸地に上げ踏みつぶして、イカの切り身を手に入れます。


 次に料理に入ります。

 1)人の姿になります。

 2)イカを食べやすい大きさに切ります。

 3)麦の粉、卵、イカを、銀色の入れ物の中に入れ、ヘラを使って混ぜます。

 4)魔コンロにのせた浅鍋をよく熱し油をひき、混ぜた生地を流しいれます。

 5)裏面に色が付いたらひっくり返し、じっくりと焼きます。

 6)火が通ったらできあがり!


 エールは「うむ」とうなずくと、ヘラを使いするりと浅鍋から野営焼きを皿に移した。

 レティシアからもらったソースを薄く薄く塗る。

 あまり味の濃いものは好きではない。なんならソースはなくても大丈夫だ。

 さっと塩味がついたイカがこんがりよく焼けた部分など、香ばしくて噛んでいくうちに甘みも出て、そのままでも大変美味。

 焼いて食べるということは、こんなにも味が変わり美味になるということだったのかと、エールは最近知った。


(もしや、肉も焼いてみたら美味かもしれぬぞ。我にもまだまだ知らぬことが多いものだ)


 イカの足をよく噛んで楽しみながら、夜は何を作ろうかと考える。

 あの卵焼きなるものは、なかなか奥深いものだった。

 レティシアから聞いた説明を思い出しながら作ったが、卵の量が多ければ固くなるし(それはそれで美味しくいただくが)、魚のスープが多いと緩くて固まらない(それはそれでスープとして美味しくいただくが)。


 ヘラを使いくるくると巻き、卵液を足してはくるくると巻くのは、わりとすぐにできるようになった。

 卵が固める仕事をするのだと、エールは試行錯誤の途中で発見した。

 しかし、いろいろ試してみたものの、なかなかあの味が再現できない。

 魚の風味だろうか、何かが薄いのだ。


(ふむ、もっと魚の量を増やしてみるかの)


 エールはデザートのリンゴまで食べ終えると、ドラゴン姿になってから海へ向かった。





 クラーケンがいれば海面から足がもじゃもじゃと出ているのだが、今日はすでに獲ってしまったのでもういない。

 くるりと海に背を向けて、ドラゴンの長い尾を海の中に入れる。

 海中でゆらゆらと尾を振ると、がぶりと何かが噛みついてきた。

 エールは尾を思いっきり跳ね上げた。

 ザバーンと海から上げられたのは長くて太い銀のヘビ、シーサーペントだ。

 陸地に打ち付け首のあたりを後ろ足で踏みつければ、ふわりと魚の身と丸い石へと変化した。

 同じようにもう一体を仕留めたら魚と石は木の影に置き、今日は海沿いをもう少し歩いてみることにした。

 少し行くと海岸線は砂浜になった。

 砂浜には黒く長いヘビのような葉のようなものが、長々と横たわっていた。


(――――これはなんぞ?)


 ついいつものクセで踏みつぶすと、ふわりと黒い板状のものに変化した。人の腕ほどの長さで、薄い木の板のような厚地の紙のようなものだ。

 踏んで変わったということは、食べられるものではないだろうか。

 エールは人の姿に戻って、手元の黒いぺらりとしたものを少しかじってみた。


(おお――――?! 味がするぞ! 塩…………海の香りであるか――――)


 ほんのりと塩の味がし、その向こう側でえもいわれぬ味がする。しいて言うのであれば、うまい味――うま味とでも表現したくなるような味である。

 しゃぶっていると味が染み出てくる。

 つい夢中で噛んでいたが、エールははっともしやこれをスープに入れたら美味いのではないかと気が付いた。


(これじゃ!! 足りなかったのはこれに違いあるまい!!)


 飛び上がった長身が、くるりと舞った。




 それからエールはさらに試行錯誤を繰り返し、卵焼き道を突き進んだ。

 凝り性の竜人がふわふわとろとろ美味な卵焼きを極めるのは、もうすぐのことだった。





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