第30話 魔王降臨再び 2
情報晶画面の上側を確認すると、“音声【全域】”と書いてある。いつの間にか声が聞こえる状態になっていたようだ。
慌てて🎤に触れると【全域】の文字が消えた。
「今日はあの印に触れてないのに、どうしてこうなったのかしら……」
『まえのとき きれてなかったのー』『ずっとついてたのー』
(前の時――――……? 前っていつだったかしら……)
記憶をたどると、ランラン♪音楽歌箱を持ってきた時のことが思い当たった。
ランラン♪音楽歌箱の方のスイッチは切ったのに、情報晶のスイッチを切っていなかった。
レティシアはカウンターに突っ伏した。
罪なき冒険者たちにあまりにも申し訳なさすぎる。
「あ、あなたたち、知ってたのに教えてくれなかったのね……」
『ぎく』『どき』
「もう……二度と歌は歌わないわよ…………」
『それだけはやめてなのー!』『ちがうのー サリィがわるいのー!』
『ワタシハ ワルクアリマセン』
「――――あらっ?! 情報晶さん、しゃべったわ?!」
話しかけても答えてくれることはなかった情報晶の声が、ケサランパサランの話に反応したのだ。
だがレティシアが言った言葉には何も言わない。
ケサランパサランにだけ答えるらしい――――と思っていたが。
『サリィしゃべるのー』『サリィがわるいのー』
『ワタシハ ハナシマス ワルクアリマセン』
「サリィ……?」
『ハイ マスター ナンデショウカ』
(わたくしにも答えてくれたわ?!)
サリィという呼びかけをすると答えるようだ。
レティシアが聞きたいことはいろいろある。ダンジョンの大本だと思われる情報晶に直接聞けるのであれば、一番早く確実だ。
あわよくば古代魔道具の秘密も知れたらいいと、レティシアは一気に気持ちが上がった。
「サリィ! あの階層主部屋が見られるのはどういうことですの?!」
『カイソウヌシ 語句データ 登録アリマセン』
「…………」
一筋縄ではいかないようだ。
記憶を掘り起こし、『――――ビジーモードニ 移行 ルームカメラ起動制限シマス』という言葉を思い出す。
「サリィ、“びじーもーど”というのは何かしら」
『ビジーモードハ 処理ガオイツカズ ソノホカノ 処理ガ デキナイ状態デス』
“処理が追い付かず、他のことができないこと”らしい。何の処理しているのかはわからない――――いや、状況からすると、灰色のモヤで取り込んでダンジョンの外に排出することかとレティシアは考えた。
ルームというのは多分“部屋”の別の言い方であるルームのことだろう。
「サリィ、“るーむかめら”というのは何かしら?」
『ルームカメラハ 各部屋ニアル 映像ヲ 撮影スルタメノ 道具デス』
“えいぞう”だの“さつえい”だのがわからない。
その後何度かやりとりをして、ここで階層主の戦いが見られるのは、その“るーむかめら”というものの、おかげだということがわかった。
「サリィ……、“るーむかめら”というのは、どういう仕組みなのかしら……?」
こんなことを聞いても『ワカリマセン』と言われるかもしれないし、教えてくれないかもしれないし、もし教えてくれたとしても知らない言葉ばかりでまた理解できないかもしれない。
だめで元々だと思いながらも聞いてみた。
『ルームカメラシステム 表示シマス』
予想に反して、画面に何かの図や魔法陣がいくつも表示された。
(まぁ…………!! 魔法陣だわ!! いくつもの魔法陣が、繋がっている…………)
レティシアはかじりつくように画面を見た。
意味のわからない魔法陣ばかりなのは仕方がないが、その上になんの魔法陣なのかが古代語で書いてあり、少しずつサリィの言葉の意味がわかるようになった。
そこからサリィとの会話が広がっていった。
階層主というのはサリィには“ルームキーパー”という言葉で通じることや、“ルームカメラ”で見えているものを、一部分大きくできることなどがわかった。
前にランラン♪音楽歌箱のスイッチを入れた時に、その中にあった魔法陣も情報晶の中に取り込まれていたらしいということも知れた。
ルームカメラが撮影したものは、見るだけではなく音も聞こえるように変わったらしいのだ。
🎤印は“マイク”、音が聞こえるもののことを“スピーカー”というらしいと、魔法陣の説明文章から読み取ることに成功した。
カメラ、マイク、スピーカー。
古代魔道具は、どうしても必要なわけではないけれども、あると楽しい便利なものが多い。これらもそういうものだった。
遠くの光景を見られるとか、聞くことができるとか、なんて楽しいものを古代の人たちは作るのか。
これだから古代魔道具の研究はやめられないのだ。
(さっそく使ってみようかしら!)
“ホーム画面に戻る”と書いてある部分に触れると、名前が移動している画面に戻る。レティシアは、もうなんなくそのあたりのことはできるようになり、自分のもののように情報晶を使いこなしていた。
ダンジョン内は
さっそく点滅した“8”という文字に触れると、ルームカメラ画面に切り替わった。
右側でゆらゆらとしているのはオオカミ型のダンジョンクリーチャー、ダイアウルフ。対するは若い冒険者パーティだった。
パーティを組める上限人数の五名が、男女混合で映っている。装備が使い込まれたもので、みな平民のようだ。
もしかしたら冒険者というよりは、自衛手段を得るためにダンジョンに潜っているのかもしれない。
浅い階層に出てくるダンジョンクリーチャーは、森などに普通にいる魔獣ばかりのため、魔獣駆除の練習に潜る者も多いのだ。
画面上部には
レティシアがわくわくとしながら🔈印に触れると、情報晶から音声が聞こえてきた。
“「――――爪に気をつけろ! 近づけるな!」”
“「はい! リーダー!」”
“「今だ!
(まぁ……! なんとも手に汗を握るわ! 魔法がないとこういう戦いになるわよね……。がんばって!!)
声を掛け合いながら倒す姿に、胸が熱くなる。平民で魔力がほとんどなくても、知恵と努力で魔獣は倒せるのだ――――ここではダンジョンクリーチャーだが。
全員で戦って勝った冒険者たちは、笑顔を浮かべた。
“「よっしゃ!」”
“「やったー!!」”
“「毛皮ドロップした?!」”
“「毛皮あるぞ!!」”
「まぁ! よかったわ!!」
レティシアは思わず椅子から立ち上がり、いっしょになって喜び手を打った。
膝の上に乗っていた召喚獣たちがころころと落ちたが、楽しそうにしている。
『楽しいのー! もう一回!』
『マスターうれしそうでよかったのー』『うれしいのー』
『オレたちもうれしいゾ!』
転がり落ちた召喚獣たちを膝と肩に乗せて、また座る。
「あら……ごめんなさいね」
謝りつつも笑みが浮かぶ。
ルームの音が聞こえるようになったのは大変いい。
「あとは、こちらの声が聞こえるようになればいいのだけど……」
『
(絶対に呼ばないわ……)
まったく懲りない魔物たちである。
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