第21話 召喚獣と漁をする 1
ケサランパサランたちに案内されて丘をいくつか越えた先に、沼があった。
レティシアはダンジョン内の沼地フィールドのような、足場悪くワニやらヘビやらがいるような場所を想像していたのだけれども、丘と丘の間の少し拓けた場所だ。
小川が流れ込んでいて明るく素朴な感じで、池と呼ぶ方があってそうだ。
「……勢いのままに来てしまったけれども、どうやって魚を獲るか考えてなかったわ……」
まさか
(網ですくうものなのかしら? それとも釣るもの?)
考えたところで、道具はない。
腰に差していた“
杖先の軌跡がほんのり青白く光っている。
円は小さな結界。描くのは召喚魔法陣。魔法陣は場に作用する魔法を使う時に使用する。召喚魔法陣の場合は、召喚するものが現れる場を作ってあげるのだ。一種の道しるべといえる。
円の中の縁側には光の印と闇の印を交互に三個ずつ描き、内側には水の印を描きこんでいく。水の印はしずくの形を描くのが一般的だが、レティシアのオリジナル魔法陣では波の印を多用する。あとは水の流れの印。空間の中へ細かくきっちりと描けば描くほど、上位のものが召喚される――――はず。
完成した召喚魔法陣に向けて、「[召喚]」と唱え、魔力を込めた杖を振った。
魔法陣からふわっと現れたのは、子牛ほどの大きさの
ぽてっとした体が空中に浮いている。その周りをケサランパサランたちが回った。
『マスター、呼んでくれてありがとケロー』
「今日も来てくれてありがとう、ケロロン」
『ケロロンだって!』『ケロロンだって!』
(ケロロンの舌があやしい動きをしているけど、ケサランパサランをぱくっといったりしないわよね……?)
ケロロンという名は、最初に召喚した時にレティシアが命名した。
『よろしくケロー』と言われたので、語尾のケロにかわいくロンを付け足してみたのだ。レティシア的に会心の名づけだと思っている。
ケロロンは、ぴょーんと空中から地面に降りた。
大きいし、体がぶるんとするけれども、動きは軽くて素早い。
ベルナールが魔獣だと思っていたうちの一体である。
実際、ビッグフロッグという魔獣はいる。沼地のある領では、ジャイアントスネークと
だからケロロンも魔獣と間違われても仕方がない話だった。
ただ、魔獣使いがいくら心を通じ合わせても、魔獣と会話はできない。ビッグフロッグがふわふわ浮くこともできない。
そこが魔獣とはまったく違うところだ。
『みんなにうらやましがられたケロー』
(えっ? 召喚獣たちって同じ場所で待っているの?)
レティシアの頭の中に、召喚獣でにぎわう待合所が思い浮かんだ。
「――――では、他の子も呼ぼうかしら」
『みんな喜ぶケロ。それでなにするケロー?』
「この池に魚がいるらしいんだけど、それを獲りたいの」
『お安いごようだケロー』
ケロロンは軽快な動きで池へ飛び込んだ。
待っている間に召喚魔法陣を描く。
風の印を描き入れた魔法陣に現れたのは、全身を
『お呼びでございますか、マスター』
「ええ。来てくれてありがとう、バトラン。ケロロンが魚を獲る間、護衛してもらえるかしら?」
『もちろんでございます』
ダークイーグルもビッグフロッグと同じで魔獣だが、地上ではめったに見ることはない。ダンジョンクリーチャーとして出合うことがほとんどになる。
『マスター、ヘビしかいないケロー』
ケロロンの声に続いて大きな水しぶきが上がった。
ザバンと水面から高く姿を現したのは、頭が九本ある水ヘビ、ヒュドラ。
レティシアはとっさにさっとうしろへ飛んだ。
「――――バトラン、お願い」
『承知いたしました』
返事とともにレティシアの前を横切った大きな翼は、その軌跡で風の結界を展開していた。
ヒュドラで怖いのは毒だ。
バトランが作る風をまとった防御結界なら、ヒュドラの毒の息もこちら側に来ない。
宵空の短杖を手に持ち、レティシアは口ずさむ“護り歌”に魔力を乗せる。
「“力の源 その元 魔の盾”」
『τωrοοο~ τωrοοο~』
バトランが羽を広げて傘のようにくるりくるりと回った。
『τωrοοο~ τωrοοο~』
ケロロンがぽってりした体で伸びあがりくるりくるりと回った。
『τωrοοο~ τωrοοο~』
ケサランパサランたちも当然のようにくるりくるりと回った。
『τωrοοο~ τωrοοο~』
ヒュドラも盛大に水しぶきを上げながらくるりくるりと回った。
「ちょっと?! ヒュドラも回っているわ?!」
『まわっちゃうのー』『おさえられないのー』
(歌はだめだわ――――!)
いったいどういうことだ。召喚獣を強くするための歌が、討伐対象も強くしてしまうとは。
(召喚獣を呼んで、あとは歌だけ歌えばいいと思っていたのに――――)
歌を歌って召喚獣に倒してもらうつもりだったのが、予定が崩れた。
レティシアは仕方なく歌から他の方法へ変えることにした。
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