第15話 古代魔道具その1(箱)
レティシアはホクホクしながら、両手に余るくらいの大きさの古代遺産の魔道具を持ち帰った。
2LDKコテージの個室ひとつを研究室にすることにし、空間箱から出した大きな机の上にお宝魔道具を出した。
ケサランパサランたちも興味深そうに周りで見ている。
レティシアはその箱をくるりと回しながら観察した。
本体の上にフタが付いている箱には、ダイヤルがあり数字が刻まれている。
(――――なるほど。温度を設定して、その温度が保てる魔道具なのね)
魔道具とは、魔石を入れて使う道具のこと。
これは魔石エネルギーを温度管理に使うようだ。古代語で“べん♪べん♪便利保温箱”と書いてあった。
治癒液や回復液などのポーションを作るための魔道具だろうか。
レティシアは道具の横に書いてある古代語を読んだ。
“
「…………まぁ…………。古代魔道具さんたら、いやだわ。ヨーグルトは時間経過のない空間箱か保冷庫に入れないと、痛んでしまうでしょう。そのくらい、わたくしだって知っていてよ?」
『つかってみるのー』『ためしてみるのー』
「そ、そうね。最初から疑ってかかるのはよくないわよね。貴重なヨーグルトですけれども、少しくらいなら試してみてもいいですわ」
レティシアは魔道具に書いてある説明通り、清潔なビンの中にヨーグルトをほんのちょっとだけ入れ、手持ちのジャージャー牛の乳を規定量入れ、書かれている温度に設定した。
「あとは明日まで待てばいいのね」
*
*
*
翌日。
「まぁ! ヨーグルトになってるわ?!」
前日はたしかにヨーグルトとサラサラした牛乳だったのに、とろりと美味しそうなヨーグルトができあがっていた。
恐る恐る食べてみても、いつものものと遜色ない味だ。
(これに牛乳を足していけば、ずっと際限なくヨーグルトが食べれるということ?! なんということでしょう!! これが古代に存在したと言われる錬金術なのでは――――?!)
「……すごいわ……。不思議だわ……」
『ふしぎかなー』『しんぴかなー』
レティシアが箱をしげしげと眺めている周りを、ケサランパサランたちがふわふわと漂っている。
「…………もしかして、他のものも増えるのかしら…………」
『いやなよかんがするのー』『いやなよかんしかしないのー』
「あなたたち、入ってみる? あったか~い気持ちいいお部屋よ?」
『きもちいいにはよわいー』『あらがえないー』
ケサランパサランを入れてみた。
*
*
*
翌日。
『あったかきもちよかったのー』『あったかさいこーだったのー』
満足そうな2体が出てきただけだった。
「……牛乳……そうよ、牛乳を入れるのを忘れていたわ!」
『ぎゅうにゅうぜめなのー』『ひどいのー』
*
*
*
翌日。
『しっとりなのー』『つやつやなのー』
真っ白い毛をつやつやにした2体が出てきただけだった。
レティシアは、今度自分でも牛乳風呂を試してみようと思った。
「治癒液はケガしてないと意味がないでしょうし、回復液とか浸かってみる?」
『みるのー』『かいふくなのー』
*
*
*
翌日。
フタを開けると、大量の小さなケサランパサランたちがあふれ出た。
『たのしいのー!』『ぎゅーぎゅーなのー!』『なのー!』『なのー!』『なのー!』『のー!』『のー!』『のー!』『のー!』『のー!』
「ひ……ひゃぁぁぁぁぁあああ!!!!」
レティシアは箱を覗き込んでいたので、あふれ出てきた大量のケサランパサランたちの渦に巻き込まれた。
小さい毛玉たちはふわふわーと舞って、ふいっと消えていった。
残ったのは、今までいっしょにいた(と思う)いつもの大きさの2体だけだった。
「びっくりしたわぁ…………。みんなどこに行ってしまったのかしら」
『しごとなのー』『はたらくのー』
「仕事?! ケサランパサランの仕事ってなんですの?!」
『ひみつなのー』『ないしょなのー』
フフフフ……と笑いながら、二体は漂っている。
魔物なんてこんなものである。
レティシアも腑に落ちないが、慣れてきていて「あらそう」と流した。
「それにしても……昨夜の箱の中って、一体どうなってたのかしら……」
そんなレティシアのつぶやきに、ケサランパサランたちはフフフフ……と笑うばかりだった。
後日また同じように試してみたけれども、もうケサランパサランが増えることはなかった。
魔物とはまったくもって謎である。
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