第32話 御一行様万事休す
家宅捜索に訪れた亜人達に、佳彦と玉藻、ついで若鳥のピー太はなす術もなく捕まってしまった。亜人達は小学生ほどの背丈しかなかったが、いずれも簡素な槍やこん棒らしきものを携えた武装集団だった。集団。彼らは大勢でやってきたのだ。厳密な人数は定かではないが、二十人くらいいたのかもしれない。
もちろん玉藻は抵抗しようとしたし、佳彦も輝く石を投げて応戦した。しかし数の暴力を前にはどうにもならなかった。
囚人よろしく引き立てられた佳彦たちは、そのまま彼らの住まう集落に通された。行き着く先は集落の外れにある囲いのある所だった。彼らにとっての監獄なのだと佳彦は静かに思った。
『ヤツラハ罠ヲ打チ壊シタ。アノ姿カラシテ四……様カモシレン』
『ドウスルカハ族長様ニ決メテモラオウ』
犬とウサギの合いの子のような頭部を持つ亜人達が何を言っているのか、佳彦にはうっすらと解った。それもまた玉藻の御業だった。狐の姿になった彼女は何処からともなく玉を用意し佳彦に握らせたのだ。すると不思議な事に、今まで犬の啼き声にしか聞こえなかった彼らの声が、意味の通る言語として聞こえるようになったのである。
聞き耳頭巾やソロモンの指環と同じよ。そう言う玉藻に対し、佳彦はほのかに笑うだけだった。
「それにしても大変な事になりましたね……」
「流石にちょっと、私もうっかりしてたかもしれないわ」
これがうっかりで済むものだろうか。そんな考えが脳裏をよぎるも、佳彦はぐっと黙って拳を握っただけだった。ここで玉藻に当たっても何も変わりはしない。そもそも彼女は一行の中で一番勇猛に亜人達に立ち向かってくれたではないか。
「私の妖術妖力でどうにかできるのでは、と思ったんじゃないかしら、キビ」
玉藻の言葉に佳彦は一瞬息が止まった。まさしくそのような事を考えていたからだ。三尾だった頃、アカギツネに受肉した時から玉藻は落ち着き払って聡明な妖狐として佳彦を支えていた。今の彼女はもっと尻尾の数が増え、力も強くなっている。
であれば、そもそもこのような椿事に巻き込まれるのは不自然だ。そう思うのも無理からぬ話だった。
すると玉藻は諦観交じりの瞳でゆっくりと首を振った。
「ごめんなさいね。力は確かに増えたけど、まだ制御の方がおぼつかないのよ。力を振るう事は簡単だけど、それでキビもろとも焼き払ってしまったら元も子も無いもの」
そのかわり。玉藻は一度身震いすると四肢を突っ張らせてその場に立ち上がる。尻尾が増えてから、狐姿の玉藻は少し大きくなったように見える。長い尻尾が六、七本もあるから余計にそう見えるのかもしれない。
「どうにか脱出する術を私も考えるわ」
そう言うや否や玉藻は柵を眺めていた。柵に近付けた鼻面がヒクヒクと動き、それに連動してヒゲが動くのも、佳彦にはばっちりと見えていた。
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