第31話 亜人達の家宅捜索
「ピー太君が罠らしきものに引っかかって、それをキビは助けたのね?」
帰宅した佳彦は、手短に今日あった事を玉藻に報告した。尻尾の増えた彼女は、以前よりも出かける頻度が落ちていた。尻尾の手入れに時間をかけているように見えるが、何もせずぼんやりと考え事をしている時間も増えていた。
それでも食料である動物や魚や果物等々を用意してくれるので特に佳彦には不満はない。というか食料が足りなければ佳彦自身で調達すれば良いと思っていたくらいだ。未だに狩りが得意とは言えない佳彦であるが、最近は小動物を仕留める事くらいならできる。動きの鈍い芋虫(もちろん無毒)や亀のような生物は言うに及ばず、油断しているネズミや無毒蛇位なら自分でもどうにかできるようになったのだ。ついでに言えば最近はアウトドア派なピー太を散歩させる事が多い。それが佳彦の小動物採取スキルを向上させてもいるのかもしれなかった。
さて現状に話を戻そう。罠の話を切り出した時、玉藻は思案するような素振りを見せていた。
あれは確かに罠だったと、佳彦は静かに言い添えた。
「ピー太が落ちた穴は自然に出来たような穴じゃあなかったんです。かなり深かったですし、何より垂直に掘られたような穴だったんですよ。きっと、落とし穴か何かの類だったのでしょう」
「落とし穴なら立派な罠になるわよね」
「立派な罠というより原始的な罠に思えますが……」
「いずれにせよ罠である事には違いないわ」
そう言った玉藻は何処か物憂げな表情を浮かべていた。
「そして罠があるという事は、罠を作れるだけの器用さを持つ種族が近くにいるという事の証拠になるわね。それこそ、前にキビが気にしていた亜人達が近くにいる筈だわ。あの祭壇みたいな建物を作った種族と同じかどうかは定かではないけれど」
「確かにそうですね」
佳彦が喋った直後にピー太が啼いていた。それはさておき玉藻の言葉は何とも意味深だった。佳彦は単純に、豆腐アパートを作った種族とあの落とし穴を作った種族は同じではないかと思っていた。しかし玉藻の言うように、その考えが正しいかどうかははっきりとしない。何せ異世界なのだ。佳彦たちはまだ亜人を目撃してはいない。しかし亜人が一種族だけと考えるのは性急だろう。
「いずれにせよ、このねぐらから離れる時が来たという事になるでしょうね」
玉藻の口から出てきたのは引っ越しの提案だった。だがいつもの引っ越し提案と異なり、不本意だと言いたげな気配が滲み出ている。
「あの石はまだあるからずっとここにいたかったんですけれど、今の状況じゃあそうも言ってられないわよね。不可抗力とはいえ、キビは原住民の罠に触れ、駄目にしてしまったんですもの。向こうの面々が知れば、腹を立てて追い回してくるかもしれないわ」
「玉藻さん。玉藻さんなら――」
どうにかできるのではないですか? そう言おうとした佳彦だったが、最後まで言い切る事は無かった。小さな足音と仔犬のような吠え声が佳彦たちの鼓膜を震わせていたからだ。
おそるおそる佳彦はテントの入り口に視線を向けた。犬ともウサギともつかぬ頭部を持つ二足歩行の生き物たちが、佳彦たちのテントに家宅侵入している最中だった。しかも向こうは簡素な槍とかを携えている。
かつて佳彦は亜人との遭遇を望んでいた。その遭遇は叶ってしまったのだが、友好的な出会いとは到底言い難かった。
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