第27話 サークルの最中で輝く奇石あり
靴を作れるような文化的な亜人が近くに生息しているのかもしれない。そう言った情報が明らかになった訳であるが、佳彦たちの暮らしはそう劇的に変化する事は無かった。未だに二人とも亜人に出くわしてはいないからだ。
偶然なのか亜人側も佳彦たちを警戒して近寄らないからなのかは定かではない。ともあれ玉藻は狩りに勤しみ、佳彦は玉藻から得た食材を料理する日々がしばらく続いた。もっとも、佳彦も佳彦で天気がいい日は外に出て、木の実や植物、動きの鈍い小動物などを採集してはいるのだが。
※
「これは……何だろう」
落ちている木の実などを拾っていた佳彦は、小さく呟いてから思わず足を止めた。下草がやや繁茂した場所を佳彦は歩いていたのだが、その一角だけ丸く地面が露わになっていたのだ。その直径は七、八十センチ程度である。更に奇怪な事に、露わになった地面の周囲に生える植物は茎も太く背丈も高く、他の同類たちよりも瑞々しく生い茂っていた。
噂のナンタラサークルであろうか。そのような事を思いつつ近付いてみると、地面の中央に淡く光る石が転がっているのを見つけた。拳ほどの大きさのそれは、淡いピンク色に輝いている。植物の生えない場所に転がり光る石。一見すると怪しい代物ではある。しかし佳彦は何故かそれほど危険性は無さそうだと思い始めていた。前に見た霊廟の毒々しい色調に較べれば、目の前の石の色など可愛い物だ、と。
ひとまず拾ってみて、玉藻と一緒に石が何なのか調べてみよう。そう思って一歩前に踏み出した佳彦は、異様な光景が広がっている事に気付いてしまった。地面が露わになっている場所はあちこちに偏在していたのだ。どれも判で押したように太く背丈の長い植物が地面を縁取っている。
そしてその中央には、さも当然のように淡く輝く石が鎮座していた。
尋常ならざる、ある意味異世界らしい光景に、佳彦は少しだけ怖気づいてしまった。
結局佳彦が輝く石を拾ったのは、輝く石を目撃した翌々日の事だった。輝く石は綺麗だったが、転がっている場所に草が一本も生えていない所が気になった。もしかしたら何か有毒な成分が出ているのではないか、と。従って佳彦は観察し、石の性質を見定めようとしたのである。異世界において何が安全で何が危険であるかを見極めるのは大切な事だった。それにそもそもオタク気質のある佳彦は、じっくりのんびり物事を観察するのがさほど苦でもない。
人体には無害であろうという結論を下したのは、小動物たちの挙動のためだった。よろよろとした足取りの小動物が、草の生えていないサークルをものともせず輝く石に近付くのを佳彦は見たのだ。小動物はその石を舐めたり齧ったりしていたのだ。不思議な事に、石を口にした小動物は、概ね元気になっていたようにも見えた。
佳彦はだから、その石には危険性はなく、むしろ何かご利益があるものだと判断を下したのだ。
ひとまず動物が触っていない石を一つ拾い上げた。しっかりとした重みがある。昔校外学習の一環で勾玉作りを行ったが、その時に使った滑石に似た重さと手触りだった。
異なる点と言えば、淡い光を漏らしている事と……地面に転がっていたはずなのにほのかに温かみを感じる事であろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます