第23話 ささやかな出立
「キビ。それ置いて行っちゃうの?」
玉藻が隅に置かれた粘土細工たちを見てそう言ったのは、二人で引っ越しの準備に勤しんでいた時だった。佳彦はあれこれ考えた挙句、きれいに並べずに少し散乱させた状態でそれらを放置しておいた。そっちの方がなんかオーパーツっぽい気がするからだ。
「うん。たくさん作っちゃったから。それに元は粘土細工だから、ゆくゆくは自然に還るし不法投棄にもならないと思ってるんだ」
「まぁ確かに不法投棄にはならないでしょうね……そもそも不法投棄の概念があるかどうかも解らないし」
「それにさ。これがオーパーツとして残ったら面白そうじゃないかな」
オーパーツ。そう言いながら佳彦は茫漠と抱いていた疑問を玉藻にぶつける事にした。
「玉藻さん。この辺りって、人間みたいな生き物もいるのかな? 四足獣にしろ六足獣にしろ、いかにも動物とか鳥っぽいものばっかり見かけるけど」
人間みたいな生き物とは端的に言えば亜人の事である。確か佳彦がかつて読んだ事のある異世界ものでは、獣人だとか亜人だとかが人間とは別種族ながらも存在するという話がかなり多かった。
ところが、佳彦自身はこの世界に来てからヒトに似た形態の生物をまだ目撃していない。玉藻は別だ。彼女は狐娘として人間の姿を取る事があるが……本質的には四足のアカギツネである。むしろ動物や獣に近い存在だ。
「……もちろんいるでしょうね」
考え込む様子を見せてから玉藻は静かに答えた。人間に近い生き物もいる。その言葉を聞いた佳彦は、心臓の鼓動が早まるのを感じた。喜びのためなのか緊張し動揺しているからなのかは定かではないけれど。
「でもねキビ。あんまり人間みたいな生き物に浪漫を感じても駄目よ。向こうが必ずしもこちらに友好的であるなんて保証はないんですから……それは、私たちと他の動物との関係性と同じようなものかもしれないわ」
諭すような玉藻の言葉を佳彦は静かに聞いていた。玉藻は見た目こそ佳彦とほぼ同年代の少女であるが、やはり彼女は年長者なのだと思いながら。
「最初のうちは遠巻きに様子を見て、場合によっては逃げる事も必要かもしれないわね」
「そ、そうですね……」
佳彦は微かに頷いた。もしかしたら自分は密かに異世界の亜人達に何か期待していたのかもしれない。その事を佳彦は思い知らされたような気がしたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます