第11話 六足獣への疑念
「た、玉藻さん。それってもしかして……」
玉藻が無造作に掴む六足の生物を、佳彦は無遠慮に指さしていた。モルモットやネズミのように小さくて愛らしい姿をしているが、魔物の特徴である六足を具えている。彼女は食料だと言っていたが、果たして大丈夫なのだろうか。
ちなみに大丈夫かと懸念しているのは食料として食べるという事だけではない。執念深く陰険で魔力あるという六足の魔物を狩った事そのものも佳彦は懸念していた。
ありていに言えば、玉藻の行為によって六足の魔物と敵対するのではないか、と。玉藻の戦闘力も未知数だが、佳彦は残念ながら戦力にならない。仇討ちと称して彼らに襲撃されればひとたまりもない。
「六足の魔物の一種よ。そうねぇ、見た目通り向こうの世界のネズミやモルモットにそっくりね」
玉藻の言葉は非常にあっさりとしていた。小動物をそっと下に降ろす彼女の片手には、いつの間にか刃物が握られていた。
大丈夫なんでしょうか。佳彦の震える問いに玉藻は首をかしげている。
「食料としては問題ないはずよ。私が今使っている肉体を調査してみたら、六足のネズミや二対の翼をもつ小鳥も食べていたみたいだし。
六足獣の血液の成分は私たちの知っている動物のそれとは違うみたいだけど、今の私の身体はアカギツネなの。アカギツネが食べて大丈夫なものは、人であるキビが食べても大丈夫なはず」
アカギツネというのは向こうの世界に広く分布する狐の事だ。日本の本州に住み狐はホンドギツネと言い、アカギツネとは亜種又は別種であるらしいという事なども、玉藻は丁寧に教えてくれた。
彼女によると、アカギツネも人間も同じ脊椎動物の哺乳類になるという。中には狐には害になる人間の食物や人間には害になる狐の食物もあるというが、そうでないものの方が圧倒的に多いのだとか。
「それはそうかもしれませんが……僕が心配しているのは六足の魔物の動きです」
佳彦はたどたどしい口調ながらもおのれの懸念事項を口にした。玉藻は少し怪訝そうな表情を浮かべたが、穏やかに微笑んだ。その笑みを見ていると、不思議と気持ちが落ち着くような感じがした。
「うーん。確かに今キビに見せたのは六足獣だけど、他の六足獣たちが徒党を組んで襲って来るって可能性は無いんじゃないかしら。まぁ、仲間同士である程度群れてはいたけれど、私が狩りを始めたらそのまま逃げちゃったし。
それにさっきも言ったように、今の私の肉体も、きちんと六足獣を食べていたのよ?」
玉藻が受肉している狐も、もしかしたら六足の魔物を食べたから六足のリカオンモドキに襲われて殺されたのだろうか。そんな疑問が佳彦の脳裏にふっと浮かんだ。
キビ。先程よりもややきつめの口調で玉藻が声をかけてくる。
「キビはあの興奮剤の影響は受けなかったけれど、もしかして王国の連中の言葉を真に受けちゃっているのかしら? ねぇキビ、彼らは六足獣、六足の魔物が危険だと言っていたみたいだけど、それが本当だって言い切れる?
私が実際に狩りをしてみた時の様子と、肉体に残っているこの子の記憶も照らし合わせてみたけれど、六足獣はむしろ魔物というよりも……」
玉藻は意味深に言葉尻を濁らせた。彷徨わせていた視線はいつの間にか仕留めた小動物たちに注がれている。
「ひとまず真相がどうなっているのか、私たちで調べましょ。自分の目で見て耳で聞く事こそに意味があるのだから」
とりあえず朝ごはんの準備が大事ね。玉藻の声は何処までも明るく朗らかだった。六足の魔物と思しき小動物ばかりが目立ったが、よく見れば四足の見慣れたウサギや鳩なども朝ごはんのもととして並んでいる。
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