第6話 内なる声との不穏なるやり取り

 召還魔法と転移魔法は原理が異なるのだろうか。佳彦がそんな事を思ったのは、着地するや否や地面に叩きつけられてバウンドしてしまったからである。柔道の授業をほんのかじる程度しか行ってこなかった佳彦は、無論とっさに受け身を取る事などは出来なかった。しかし――幸いな事にダメージは無かったらしい。烈しい回転に晒されて少しの間気分が悪かったが、打撲や擦り傷を負ったような痛みは無かった。


――あらごめんなさい。あいつらの転移先が危険そうだったから、こちらで調整したのだけど……力足りずで変な事になっちゃったわね。


 首をもたげて半身を起こしている時に、またあの声が聞こえてきた。若い娘の声で、申し訳なさそうな気配が漂っている。


――さっきからずっと俺の中から声が聞こえるが、一体なんなんだ? タルパやイマジナリーフレンドなんぞ作った覚えは無いし……


 佳彦は時たま聞こえてくる内なる声について考えを巡らせた。その声は明らかに自分の思考とは異なっている。しかし、一部の子供らが持つという架空の友達とは何かが違う。イマジナリーフレンドは思春期前からあるじに寄り添う事もあるというが、佳彦が謎の声を聴くようになったのは異世界に飛ばされた直後の事だ。

 思いがけぬ展開に直面し心を病んだか、或いは異世界にありがちなナビゲート機能のどちらかであろうと佳彦は思う事にした。できるならば後者であれば望ましい、とも。

――ナビゲート機能ならば、あれだな。俺のステータスとか判るのかな? と言っても、スキルが無いとかって言われてから無駄かもしれないかな


――うふふ、私はナビゲート機能なんかじゃあなくてよ。、あなたの事は良く知っているけどね


 思案する佳彦の内側で、やはりあの声が聞こえてきた。案の定来るだろうなと実は佳彦は思っていた。それがもしかすると、ヤバい事なのかもしれないと佳彦は薄々感じ始めていた。尋常ならざる出来事に順応し始めているのだと。

 しかし、生態系を無視したような六足の魔物が跋扈する事、無能であるがゆえにかつての級友を殺すよう命じた国王の態度こそが尋常ならざる事の筆頭ではないだろうか? ささやかに語り掛ける内なる声などは、それらに比べらればまだ可愛い方かもしれない。

 そんな事を思っている間にも声は続ける。

――知りたければあなたの知らない事は何でも教えてあげる。私はずぅっと昔からあなたの事を知っているんですから。

 だけど今はまだその時じゃあない事は、私だって気付いているわ。何せ向こうでは、何も言わず何も示さずにじっとしていただけですもの。今だってかなり戸惑っているんですから、今この状態で私が色々と話しかけても困るでしょ。

 そうね、少なくともを見つけてしてから……色々と話してあげるわ。


 佳彦は内なる声の主張を黙って聞いていた。声は親しげであるにもかかわらず、その姿は確かに掴みどころがないかのように皆目イメージできない。

 それにしても器や受肉とは何だろうか。彼女(?)の言っている事はあまりよく解らなかったが、もしかすると六足の魔物やウルム八世などよりもうんと厄介で禍々しい存在ではないか。そんな考えさえふっと脳裏をよぎってきた。

――ぼやぼやしていてもどうにもならないわ。ここが何処かを見定めて、食べれる物を探さないと

 佳彦の疑問を払拭するように、内なる声は働きかけてきた。

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