第40話 そのあなたを初めてコケにしました
「痛ぁ……。尻に青痣できてそう。でもこいつのお陰でちょっとは緩和されたかな」
俺が落ちた先にはこんがりと焼けたあの小さいオーク。
生きていた時はどうしてやろうって思ってたけど、クッションになってくれたたし、何か香ばしいし、今の衝撃で腹が裂けてほわっと焼けたバラの辺りの肉が顔を見せてちょっと旨そうなディティールになって、なんとなく腹が満たされるような感覚になってるような気もするなからまぁ、許してやらなくもないか――
「ぶもぉっ!」
「――え、速っ!? ちょいふざけ過ぎたか」
小さいオークの身体を見て馬鹿みたいな事を考えていると、思っていたよりも早くオーク【RR】? があの場所から地上まで復帰してきていた。
目が血走ってる所を見ると自分の住処を滅茶苦茶にされて相当お怒りのようだ。
殺意高め、食欲多め、スピード増し増し、オーク【RR】さん、見た目怖すぎなんですけど。
「迎え撃――これ邪魔っ!」
俺は足元に転がる小さいオークの死体を放ってどかすと、迫ってくるオーク【RR】? との距離を敢えて詰める様に前進した。
【ファイアボール】を撃つには溜め時間が中途半端になりそうだし、肉弾戦の方がノーダメで楽だろ。
「ぶもぉっ!」
「おま、何それ?」
オーク【RR】は俺が向かって来るのを察して脚を止めると、その場で止まって口から小さい魔石をぺっと吐き出した。
するとその魔石は弾丸のように飛び、俺の身体を狙ってきた。
速くて見え辛いけど細目にすると、その魔石の弾丸からはねばねばした白い何かが尾を引くようについてきている。
あれもしかして、あいつの唾?てことは喰らうとまたねちゃねちゃ地獄ってこと?
もう汚いし、クチャラーだし、こいつマジ嫌いだわぁ。
「危っ! ――はっやいなあ。しかもそれ、何発もいけるのかよ……」
初撃の魔石の弾丸を避けると、続けざまにオーク【RR】? は弾丸を吐き続けた。
しっかり見ていれば避けられはするけど、これじゃあこっちから攻撃が出来ない。
いっそのこと攻撃を受けて突っ込むか?
でもあのねばねばは鬱陶しいし、そもそも汚いから当たりたくないんだよな。
「おいお前ずるいぞっ! 正々堂々戦えって!」
俺が呼び掛けても当然オーク【RR】? は聞いてくれない。
まぁもう面倒だけどあいつが腹の中に貯めてる魔石が切れるまで付き合うしかな――
「いっ! 何で? 今のは避けた筈なのに……」
避けた筈の魔石の弾丸が何故か太腿の辺りにヒットしてそのまま唾と一緒に張り付いた。
関節部分とか接地部分じゃないから動きに支障はないけど……なんだったんだ今の弾。
ギリギリで避けて地面には……落ちてないみたいだな。
魔石の弾が跳ね返ってきたわけじゃない、とすると……
「ホーミング型もいけるってわけかよ」
「ぶもぉっ!」
撃ち出される弾から今度は避けるのではなく走って逃げる。
すると魔石の弾は案の定、俺の後を追ってきた。
右に逃げても、左に逃げても、避けても避けてもしつこく追ってくるとか……このオーク【RR】? の属性にクチャラーと新しくストーカーも追加してやるか。
「――ヤバ、もう限界、有酸素運動、しんど、いっ」
暫く避け続けてみたけど、スキルの効果は一向に切れる様子を見せない。
それどころか、俺のスタミナはもうゼロよ。
「いっ! ――脚が」
魔石の弾が1つ一瞬止まった俺の右足に直撃した。
地面にぴったりくっついた足はその場から動かせなくなり、逃げる事が出来なくなった。
「ファイアっ、ぐっ、いっ、ああぁっ! 腹立っ、つぅ――」
どうせ動けないならと思って、我慢して魔石の弾を受けながらファイアボールでオーク【RR】? を撃ち落とそうとするけど、魔法攻撃を発動する前にガンガンガンガン顔やら腕やらに当たる魔石が予想以上に気になるし、微妙に痛いし、腕が狙いから逸れるし、ストレスが半端ない。
これじゃあ撃ってもオーク【RR】? に当たらなっ――ぐあっ! ……。
「くそったれええええええああああああっ!! もう狙いも糞も溜めもあるかっ! 【ファイア――】」
フラストレーションが最大に達した俺は絶叫しながら溜める事もしないで適当にファイアボールを放とうとした。
――べちょ。べちょちょちょちょちょ。
しかしそんな俺の目の前に突如として透明な液体が飛び、魔石の弾丸をまるでクモの巣のように捕らえてしまった。
こんなスキル俺は持ってないぞ。
一体誰が……いや、俺の、オークと敵対している人間なんてこの場所にあいつしかいない。
――ぐちゅぐちゃ……ごくん。
「ぷはぁ……オークの肉も、こうして食う、と、結構、いけるもんだな。それに、そうか、俺はここで無理矢理オーク肉を突っ込まれてたから、相手から――」
「遠藤、さん……。動けるように?」
「少しだけ、だがな。多分俺が変わって、オークの肉をこうしてちゃんと食べたから……。ふふ、俺はもう人間じゃないのかもな」
遠藤が食ったのは転がっている小さなオークだろう。
それがきっかけでスキルを入手、オークの唾と同じ見た目をしているクモの巣のように張られたものはおそらく遠藤の唾。
つまり遠藤は相手を食ってスキルを手に入れる手段を手にして、それを行使したのだ。
その証拠に遠藤の尻からくるんと丸まった可愛らしい尻尾が……
ふ、まさかあの遠藤に可愛らしい尻尾とはな。
「……あはははははははははははっ!! 似合わなっ!」
「笑うのは後にしてくれませかね……。くそっ、初めてですよ、この私をここまでコケにしてくれたのは……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。