第41話 笑いが止まりませんなあ!

「オーク尻尾はあれですけど、1人称【俺】の方が方が似合いますね」

「今更繕っても無駄で……無駄だよな。おい、攻撃は止めたんださっきのデカい爆発はもう1回いけるか?」

「……折角助けに来たっていうのに酷い態度じゃありませんか?別に俺はあの攻撃が出来なくなるまで待っててもいいし……なんならもう面倒だし、遠藤さんも元気になったみたいだから後は任せて帰っても――」

「お前私……俺を助けに来たのかからかいに来たのかどっちなんだ……。はぁ、分かった。俺じゃあいつは倒せない。頼む、協力してくれ」

「……仕方ありませんねえ。じゃとっておきを」


 遠藤は歯をギリギリと擦り合わせて悔しそうな表情で懇願した。


 こんな状況だってのにこの人プライド高過ぎじゃあありませんか?


 ――キィン


「その右手……やはりさっきの爆発は動画でも見せてた魔法攻撃か。だがレベル10の魔法攻撃であれだけの威力はあり得ない。ましてやそれがファイアボールなんて……まず間違いなく上級魔法以上。演出上本来の魔法名を偽って行使、それに今は無事でもそれなりのデメリットを払っているはず。例えば相当なHPを削られているとか、寿命何て言う可能性も――」

「出してる動画は全部ノンフィクションだっての……。今から撃ってあげますから目を開いてよーく見ててください。……【ファイアボール】っ!!!」


何に関しても批判的なコメントをしなければ気が済まない芸能雑誌記者みたいなうっざい遠藤さんにうんざりしながら俺は最大まで貯めた【ファイアボール】をオーク【RR】? に向かって放った。


凄まじい速さで撃ち出されたファイアボールは光線のような跡を残して遠藤の張ったクモの巣状の唾を貫通、蒸発させ、飛んでくる魔石の弾と衝突、そして……



 ――ドガァアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!



 炸裂。

 正面は火の海。きのこ雲。

 ああ。快、感。


「ぐあっ! あっづぁあ!」

「そうだった……。――遠藤さん出来るだけ俺の近くに――」


 爆風に乗って火が俺達の元にも飛んできた。


 俺は慌てて遠藤の前に立ち塞がったが、遠藤の髪はまぁよく燃えている。


 そういえば俺は自分の炎で燃えないけど、他人は燃えるんだよね。

 いっけねっ! 当たり前の事だけど忘れてました! てへぺろ……おっとこれはもう死語か。


「もう遅いっ! 見ろっ! 大量の火の粉で俺の大事な髪が……」

「あー。でも長めの髪よりいっそ坊主の方が清潔感あるんじゃないですか? それに誠実に見られるかも」

「お前なぁっ!」


 迫力のある目でガンを飛ばされても俺の目には髪がチリチリでアフロみたいになった遠藤が……ぷー、くすくす。


 これは小鳥遊君にも見せないとな。



 ――カシャッ!



「おま――。勝手に撮るんじゃないっ! 画像を消せっ! もしくはそのスマホをよこせっ! 叩き割ってやる!」

「なんだなんだ結構元気じゃないですか! でも残念、これは永久保存させてもらいまーす! あっネットには流さないので安心したください」

「誰かがそんなものを持ってるっていう時点で安心なんて出来るわけないだろっ!」

「ちょっ服は引っ張らな、やめ――。や、破けちゃうだろうがっ!」

「お前が盗撮するからだろっ!」


 俺がスマホに遠藤のあられもない姿を保存すると、遠藤は俺の服を引っ張りながらスマホを奪取しようとボロボロな身体を密着させてきた。


 おっさん同士でわちゃわちゃしてる光景って他の人から見たらこんなにおぞましいものはないって思うんだろうな。需要がないよ需要が。


 ――コツン。


「ん?」


 必死な遠藤の相手を嫌々していると、俺の足に水晶がぶつかった。


 きっと俺の【ファイアボール】の爆風でここまで転がってきたのだろう。


 遠藤も助けた事だし、さっさと地上に戻ってその隙にささっと逃げるか。


「最下層到達の証明水晶か。ここのダンジョンの水晶に触れるとどうなるのか、俺が確認してや――」

「残念、踏破したのは俺なんで遠藤さんは黙っててくださーい!」


 遠藤はここぞとばかりに手を伸ばしたが、俺はそれをはたいて余裕な素振りを見せながら水晶に触れた。


 内心は滅茶苦茶ビビったけどね。


 遠藤が会社でのし上がる事が出来たのはこういう図々しい所があったからなのかもしれない。


 『ダンジョンの踏破を確認しました。褒美として宝箱が出現します。モンスター遠藤に触れた状態で踏破されました。【あなたが踏破したダンジョンのモンスター全て、また遠藤がテイム】可能になりました。遠藤をテイムしますか?』


 えーっとプライドがやたら高くて、図々しくて、偉そうで、ちょぉおっとだけ2枚目なこの遠藤をテイム出来る……。


 え、マジ?


「どうした? なぜ黙ってる? 宝箱以外の報酬はなんだ?」

「……ふふ、ふふふふふふふふふ」

「な、なんだよ急に気持ち悪い笑い方して。呪いでもかけられ――」

「はい、テイムします。いやー、ある意味これは呪いだ。正解だよ遠藤さ、いーや遠藤。でも残念! 呪いに掛かったのは俺じゃないんだわ」

「それは一体どういう事――」

「遠藤に初めての命令を下す。今度の提携もその後も全て焼肉森本の都合がいいように『佐藤ジャーキー』で働きかけろ」

「なっ!? スパイ的な役として焼肉森本にだと!? 馬鹿を言うな、俺がわざわざあんなに小さな店の肩をも――。かし、こまりました」

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