第39話 オークってクチャラーなんです
「ぶもぉっ」
「いっ! こいつ……」
瞬間接着剤のような涎でベタつく地面から抜け出そうと全身に力を込めると、俺の背中の上を小さいオークがぴょんっと飛び乗って足場にした。
どこまでも俺をおちょくれば気が済むんだよ。
「ぶもぉ……」
そのまま小さいオークは水晶に座るオークの元に駆け寄ると、膝を地面につけて盗んだ俺の生姜焼を献上する。
戦闘の感じからして仲間意識とかはないと思っていたけど、そうでもないらしい。
――くちゅくちゅぐちゅっ、ゴクン。
「ぶもぉっ!」
潔癖症の人なら卒倒してしまいそうな程のクチャクチャ音をたてながら献上された生姜焼をあっという間に食いきった水晶に座るオーク。
こんなに吠えるなんて、よっぽど旨かったのかな? ま、まぁ悪い気はしないけど。
「……ぶもぉ」
水晶に座っていたオークは立ち上がり、そっと小さいオークの頭を撫でる。
小さいオークは満足気に微笑みながら小さく声を上げているけど……こんなのが欲しくてこいつはリスクを負って俺の生姜焼を盗んだの――。
ぷしっ、びちゃっ、びちゃびちゃびちゃっ
立ち上がったオークはそのまま涎によって地面に這いつくばっているオークの頭と身体を掴み、一気に引きちぎった。
千切られた箇所から大量の血が地面に流れ落ち、音を響かせた。
すると、今度は小さいオークがそれの元に駆け寄って肉を食べ始めた。
ここにいるオークは食糧。
そしてこの食糧は他のオークを手懐ける為の道具としても扱われているらしい。
小さいオークが痩せ細っていた事から、このダンジョンに発生するモンスターや木の実などはオーク達による消費量よりも少ない事が想像出来る。
そんな状況下で抜けて強い存在であるオークが誕生、過剰な数のオークを減らすだけでなくて、オークを統制する為に共食いを利用し、常時道具であり食糧であるオークを保管する為にこの場所を作ったのだろう。
強いオークが誕生出来た理由としてはきっとここの水晶が原因なんだと思う。
まったく……。つくづく知能の高いモンスターとは縁があるなってあいつ何するつもりだ?
肉を食べる小さいオークを見つめていたあの偉そうなオーク、そういった区分けはないと思っていたけど他より強そうだからオーク【RR】? は小さいオークがまだ口をつけていない腕と脚を引きちぎって遠藤の元に近づいていき、そして腕だけを無理やり遠藤の口に突っ込んだ。
「ぶもぉっ……」
「う、ぐ、ご、あぁあああ、ごべう゛おえ」
うっわぁひでぇ拷問……いや、何か聞くつもりはないからただの虐めか?
どっちにしろあんだけ無理に未処理の生肉を口に突っ込まれたら絶対腹壊すって……。
でも、攻撃された跡もあるし、目も開けれないっぽいな……。
腹壊すとかもうそんなのは気にならないくらい全身に痛みがあるのかも。
「死にかけもいいとこだけど、生きてたか遠藤」
「ひ、どの、ご、え゛?」
俺の声が聞こえたようで、ギリギリ人の言葉を保っている遠藤のカッスカスの声が俺のところまで届いた。
無理に食わされてるからか、喉を攻撃されたからなのかは分からないけど、あんまり喋らすのは良くなさそう。
「ぶ、ふう……」
そんな遠藤の声や俺に興味がないのか、オーク【RR】? は遠藤の服を捲り上げて首をふると、持っていた引きちぎれたオークの脚をもの足りなさそうにしゃぶった。
餌を与えて腹を見る……。
オークの肉に物足りなさを感じている。
生姜焼をこれでもかってほど旨そうに食っていた。
もしかしてこいつ、遠藤を肥えさせて新しい味、人肉を食おうとしているのか!?
生肉食いオンリーのモンスターのクセにやってる事が俺達の養殖場に似てるな。
ちょっと親近感沸くかもって、そんな場合じゃねぇ!
早く遠藤を助けてやんないと! あれ多分ほっといても死ぬぞ!
「【ファイアボール】っ!!」
俺は自分の腹の下辺りに8割くらいの威力で【ファイアボール】を放った。
地面は割れて、纏わりついていた涎も炎で消えた。
そして俺の身体はその反動で宙に飛んだ。
フロア全体の状況が良く見える。
これならこの遠距離からでもあのオーク【RR】? を確実に撃ち殺せ――
「いない?」
オーク【RR】が居たはずの場所に視線を向けるといるはずの奴がいない。
見えるのは炎で服と涎が綺麗に消えた全裸の遠藤と丸焦げのオーク達……小さいオークだけはほんのり焦げてる程度でなんだか旨そうだな。
「ぶもぉ!」
「後ろっ!?」
あり得ない場所からの鳴き声に俺は落下しながら急いで振り返った。
オーク【RR】? の肌に何ヵ所か火傷の跡が見える。
飛び上がったのは【ファイアボール】の爆風の所為だろう。
「でもその足元のはお前のスキルか?」
オーク【RR】? の足元には水晶や空洞と同じ色の光で出来た足場。
目を凝らしてみれば魔石がいくつも重なって……あー、もしかしてあの空洞もこいつがスキルと魔石を使って作ったのか。
「なかなか器用じゃ――」
「ぶもぉっ!」
不安定な体勢で受ける足場有りで芯の入った一撃。
攻撃は痛くないけどこれ、落ちるな。
……。
大丈夫だよね。今のでノーダメなら地面にぶつかってもセーフだよね、そうだよねっ!?
神様仏様どうか俺、私をお助けくださいっ!!
「アぁああああメえええええン!!」
勢い良く落下する事で鳴った風を切る音を聞きながら、俺はいつもの様に自分に言い聞かせて祈りを捧げたのだった。
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