生徒の確認が終わると、簡単に式の説明がされた。大まかな流れを把握することに始まり、立ち止まる位置、席に座るタイミング。基本的には司会者の指示に従って動くことになる。それさえしっかり守れば、まず、大きなミスをすることは無いだろう。

その後はお辞儀の仕方や立ち方、座り方の練習を行い、体育館前に移動となった。式が始まるまで、もう5分とない。




「新入生、入場」


制服や髪を整えている間に、その時がやって来た。パイプオルガンの、厳かでいてどこか不穏な演奏が聞こえると、会場から一定のテンポで拍手が起こる。パチ、パチ、パチ、パチ。それに合わせて、新入生たちがゆっくりと体育館に吸い込まれていく。


C組の入場が始まって数分後。前方からくすくすと笑う声が聞こえてきた。どうやら知里が、右の手と足を同時に出してしまったらしい。揶揄う材料ができて、あの意地の悪い少女たちは喜んだだろう。

醜く歪んだ顔を思い出して、桔花は不快そうに眉間に皺を寄せた。


「次、留守桔花さん。姿勢正して。そう、いいわよ。笑顔でね、笑顔」

「はい」


入り口前にいた女性教師に背を押され、つんのめるように中に入る。前方を歩く生徒がどこで曲ったかを確認して、床に等間隔で貼られた白いテープを頼りに進む。途中、保護者席の前を通ると、侑名がカメラを構える姿が横目で見えた。カシャッ、カシャッ。シャッターを切る音がやけに気になった。


席に着くと、気持ちに余裕ができた。後は話を聞くだけだから。開会の言葉に続いて、来賓紹介、祝いの言葉。長ったらしい、テンプレートな挨拶を聞きながら、桔花は疑問を抱いていた。小学校、中学校といくつもの式に参加して来たが、大抵は校長先生が先に話をしていた気がする。PTA会長などはその次。それに倣えば、今回の入学式も学長の挨拶から始まるんじゃないのか。桔花はキョロキョロと辺りを見渡して、自分と同じように不思議そうな顔をしている生徒を探した。が、誰一人として見つからない。そもそも、真剣に話を聞いている生徒が少ないんだろう。あくびを噛み殺したような顔で、ぼーっとしている者が多い。

ならば、保護者はどうだろう。学長挨拶が無いことに違和感を覚えた人はいないか。まさか後ろを向いて確認するわけにもいかず、桔花は悶々とした時間を過ごした。


「生徒会長挨拶」


順調に式が進み、気がつくと繁夏が登壇していた。

新入生たちに優しく微笑みながら、祝いの言葉を読み上げる。ほうっと誰かが感嘆の声を漏らした。

桔花は立ち上がって、自身が彼女と同じ寮であることを自慢したくなった。それだけの関係であっても、ここにいる新入生たちよりは上だ。

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