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彼女の挨拶が終わると、ようやく学長が腰を上げた。他とは違う話が出てくるのかと思ったら、何ら変わらない。失礼ながら、ただ長いだけ。飽き飽きする。立派な髭をしきりに撫でながら、のんびりと話をしていく。トリを飾るには薄い。さっきの繁夏のほうが、最後にふさわしかった。ここにきて、どうしてこの人の話を聞かなくてはならないのか。
桔花はささやかな抗議の意味を込めて、目を閉じた。誰もあなたの話なんて聞いていませんよ。早く式を終わらせて下さい。生意気にもそんなことを考えていると、学長の使っていたマイクがキーンと鳴った。耳を塞ぎたくなるほどの音に、眠りかけていた生徒たちもハッと顔を上げた。全員の注目が、学長に集まる。
「この学園で生活する上で、大切なことをお教えします。きちんと聞いて下さいね」
有無を言わせぬ強い口調に、ピリッと空気が張り詰めた。なんだかんだでつまらない話が続くんだと思った桔花は、あまり期待せず耳を傾けた。
「旧校舎よりやって来る、関わってはいけない女の件です。詳しくは各クラスに戻ってから説明があると思いますが、皆さんも怖い目に遭いたくはないでしょう。絶対に、女に近づかないようにお願いします」
ざわめく新入生たち。保護者は先に聞いていたのか、落ち着きをはらっている。不自然なほど静かだ。
関わってはいけない女なんて、得体の知れない存在がいると言われたのに、いささか物分かりが良すぎる気がする。
「関わってはいけない女、か……」
その言葉、どこかで。
「以上で、祝いの言葉とさせていただきます。新入生の皆さん、並びに保護者の皆様。本日は誠におめでとうございます」
学長が席に戻っても、新入生たちの戸惑いの声はおさまらない。それもそうだろう。後で説明すると言われても、気になって仕方ない。わざわざ、入学式で話すのだから、かなり大事なことのはずだ。
「国家斉唱。皆様、ご起立願います」
それでも式は続く。静かにするようにとのアナウンスも無く、淡々と。そうなると、黙って従うしかない。話し声が徐々に小さくなり、やがて消えた。
国家斉唱、閉会の言葉と続き、退場となる。
「関わってはいけない女って、アイツじゃない?」
「やめなよ、怒られるんだから」
「大丈夫だって。ね、式が終わったらさ……」
気が抜けたのか、コソコソと話をする少女たち。
目線の先には知里が。完全に目をつけられてしまったようだ。先が思いやられる。来年のクラス替えまで、大きな事件が起きないといいけど。
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