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 庭は荒れてるなあ、ゴミは溜めてないみたいだけど。あいつ一人では手が回らないか。ゴミを片付けた時、伸びていた草は刈ってあげたんだけど。放っておくとやっぱりこんなに伸びちゃうんだね。

 近くを歩いていた何人かと挨拶をした。僕がゴミを処分したことを知っているようだ。秋が近づいている。久しぶりに赤とんぼを見た。

「家のまわりをうろついていたでしょう」

「アフターケアみたいなものだよ。だいぶ草が伸びちゃったみたいだけど」

「そのうち業者が入ることになっているの。今はまだ早いんだって。一回ですまさないと」

「ほとんど家のことは一人でやってるから。マンションかアパートのほうが本当はいいんだけどね」

「あなたお父さんと連絡取れるんでしょう」

「それは別にかまわないけど。お父さんも家と土地はおまえたちの自由にしていいって言ってるし」

「おかあさんはどうなの」

「それなのよねえ、問題は。少しずつ良くなってはきているけど」

「良かったじゃない」

「今は編み物に夢中」

「ガーデニングとかはじめればいいのに」

「そのうちね」

 突然ハンバーガーショップに呼び出された。あいつの店までは、ここからは電車でも車でもかなり時間がかかる。

「お腹空いちゃって。朝からバタバタしてたから」

 あいつは通常より大きいサイズのハンバーガーにかじりつく。僕がポテトをつまんでいると、そこにもあいつの手が伸びてくる。

「そんなガツガツしなくても。その化粧でお店大丈夫」

「今日は休みだから」

 ずいぶんカジュアルだなとは思ってたけど、着替えるのかと思っていた。

「ねえ、映画つき合ってよ。見たい映画があるんだけど、一人じゃちょっと恐いの」

「恐い映画苦手だっけ」

「てゆうか、おまえと映画見たことが思いだせない」

 ストレスが溜まっているんだろうか。自分の親とはいえ無理もない気がした。

 僕たちはハンバーガーショップを出て、駅前にある大きな映画館に向かって歩いている。

「お腹は満足した」

「映画館でポップコーン食べるから大丈夫」

「キャラメル味の」

「そう、キャラメル味」

 僕は歩きながら、地元にあったみすぼらしい木造の映画館のことを考えていた。親に連れられてアニメを見に行った。

 映画館で映画を見るなんて何年ぶりだろう。もちろんその時以来ではない。

 でも、映画館といえばあの映画館のことばかり思いだす。

 映画はビデオで見ることのほうが多いからかな。

「だめだよ、やっぱりあの大画面で見ないと。あの娘とは行ってないの」

「特別出かけるってないんだよね。いつも気がつくといるから」

「今度はあたしたちみたいにならないようにしてね」

「そのつもりだから大丈夫」

「それより、お父さんとちゃんと話したら。家のこととかは直接話したほうがいいと思う」

 あいつは黙っている。僕はちょっとうつむきかけたあいつの顔をのぞいてみる。

「その話はあとにしよう。さっきも言ったけどお母さん良くなってきているから」

「お母さんは会いたくないのかな」

「もう戻れないと思う。あなたとあたしと同じだよ」

「でも、こうして会ってるじゃん」

「そういう時が来ればね」

「それにあなたと会うのは今だけ。あなただっていつまでもフリーじゃないんだし」

「ポップコーンは塩味のほうが好きだな」

 僕とあいつは映画館のあるビルに入っていく。エレベーターの前には人だかりができていた。

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