2-8

 揃えた前髪にメガネをかけ、かなり地味にあの写真に写っていた。

 名前はシノザキマリ。

 僕が受け取った名刺の名前は偽名だったようだ。

「また会えるとは思わなかったね」

「カモになる人でも探してるの」

「なんか勘違いしてない。あたしはただちょっと仕返ししたかっただけだから」

「結局は折れてあげたんだし」

「それじゃ何でこんなところにいるの。別に稼ぐ必要もないでしょう」

「あなたこそ何でこんなところにきたの。可愛い彼女いるのに」

「人探しだよ」

「こんなレトロなヘルスまだあったんだね」

「この辺は学生が多いから、リーズナブルでしょ」

「こんな早くから居るならフツーに働いたほうがいいんじゃない」

「いいじゃない。あたしはあたしなりに考えているんだから」

「それより遊んでいかないの」

「仕事だからね」

「でもそれじゃ聞きたいこと話してもらえないでしょ。肌が触れ合うから気が緩むんだし」

「まあね。フツーはそうしてるけど、あんたじゃなあ」

「それならそれでいいけど」

「ねえ、これから時間ある。ごはんおごってよ。あたし多分あなたで上がりだから」

「ずいぶん地味なパンツ穿いてたよね、白い無地の」

「あれね。意外と好きな人多いのよ。欲しいっていうから何枚か売った」

「そんなことしていいの」

「お店にはナイショ」

 チーズインハンバーグにチーズをのせたチキングリル。つけ合わせのナポリタンにも粉チーズをかける。

「チーズ大好き」そう言ってマリが笑う。

「食べないの」

 マリが僕の皿のものまで欲しそうに僕を見ている。

「食べるよ。僕もチーズ好きだし」

「お腹も空いてる」

「朝ちょっとパンをかじっただけだからね」

「あの業界は詳しいの」

「おかげさまで、詳しくなりました」

「そうか」

「アミちゃんのことでしょう」

「何でわかるの」

「すごいでしょう、あたし」

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