2-4

「本当に片付けてくれるの」

「何を」

「この前言ってたじゃない、ゴミのこと」

「片付けるよ」

「一人で」

「ゴミの状況によるけど、僕ともう一人かな。ゴミの片づけはその人の仕事だから。僕はその手伝いをしてるだけ」

「どんな人」

「いい人だよ。何でも屋さん」

「信用できる」

「もちろん。秘密は守るよ。探偵もそうだけど、何でも屋もそこのところが一番重要だからね」

 電話の向こうであいつは少し考えている様子だった。

「お母さん、壊れちゃっているから」

 あいつは小さな声でつぶやくようにこう言った。

「任せてもらうにしても、一度は立ち会ってもらうようだから。お母さんが無理ならお前一人でもいいよ」

 何回トラックにゴミを積んだのか忘れてしまった。二人でやるにはゴミの量が多すぎる。そう感じはじめていた。まだ明らかに燃えるゴミとわかるものしか運び出していない。ゴミが減っていくにつれて、この家の以前の生活が見えてくる。生きていくことを突然放棄してしまったように見えるあいつの母親は、やっと姿を現した畳の上にすわりこんだまま動かない。僕が電話してからそんなにたっていないのに。

 あの頃はまだ、ゴミに埋もれていても電話で話をすることはできたのか。あいつも母親同様、ゴミの始末を放棄してしまったのか。どの段階でここに戻ってきたのかはわからないけれど、何となくわかるような気がした。

 僕は渋々僕たちの手伝いをしているあいつを見ている。あいつはもともと家の片付は得意な方ではない。僕も同じなのだけれど。

「あたしはホテルにいるの。お母さんもたまには連れていくけど、ここから離れられないみたい」

「何を残すかは、お前に決めてもらわないと」

 キン兄と僕はゴミの仕分けをはじめていた。

「必要最低限の物だけ残してもらえばいいよ。何なら全部捨ててもらってもかまわない」

 この家で生活していた痕跡をすべて消してしまいたいのか。そうでもしないとあいつの母親は新しい一歩を踏み出すことはできないだろう。そういえば僕もあいつと暮らしていた部屋の物はすべて捨ててしまった。

「土地と家を処分してもいいんだけど、お父さんの名義だから」

「とりあえずはここでいいんじゃないの。お前もずっとホテル暮らしってわけにもいかないし」

 僕はなぜここにあいつの父親がいないのかは聞かなかった。

 日が沈みはじめるころ、僕とキン兄は今日最後のゴミを積んでトラックに乗り込んだ。

「また明日来る」僕はトラックの窓越しにあいつに言った。

「少しは掃除してくれると助かるんですけど」

「多分あのままだろう」

「ゴミ捨てたら風呂に行きましょう」

「そうだな。いつものサウナでビール」

「今日も焼き鳥ですか」

「それより焼肉だろう。前金でだいぶもらったから」

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