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郊外の団地。古い団地のせいか、道幅が狭くアスファルトもところどころ穴があいていたり補修した跡がある。こういう場所に来てみると、田舎も都会もそんなに変わりがないように思えてくる。
違っているのは、電車に乗るとすぐにビルが立ち並ぶ景色が見えてくることぐらいだろうか。わずかな記憶をたよりに団地の中を歩いてみたけれど、目的の場所に辿り着きそうになかった。同じような家ばかりが並んでいて、自分の歩いている道が、ここに来て初めて歩いている道なのか、一度歩いた道なのかさえもわからなくなってしまっている。
しかたなくそれらしいものを首から下げて、保険会社の調査員ということで聞き込みをはじめた。道を歩いている人に聞いてみると、意外と簡単にあいつの実家の場所がわかった。ただ何となく様子がおかしい感じがした。場所は教えてくれたけれど、それ以上のことは話してもらえずに逃げるように離れていってしまう。家の前を通り過ぎるように歩いてみると、なぜこの家についてあまり話したがらなかったのかすぐにわかった。その家はまわりの家とくらべても明らかにみすぼらしく、庭や家のまわりは荒れ放題でゴミが散在している。
本当にこの家に人が住んでいるのだろうか。人の気配が感じられない。僕が家を見ていると、おばさん寄ってきて嫁に行った娘が戻ってきていることを教えてくれた。ミミちゃんの言ったことはまちがいではなかったようだ。
「ギョーザすごく評判よかった」
ミミちゃんがぼくの隣にすわってこう言う。
「あいつ今日はいないの」
「今はもうここにいないの。ゴメン、言ってなかったね」
「いつもこんな感じでしょう。平日はママとあたしで十分」
たしかに、この前も今日もそんなに客が多いわけではない。
「ねえ、週末に来てよ。若いバイトの子がいるから」
「それはいいね」そう言って僕はタバコを出して口にくわえた。すかさずミミちゃんがライターで火をつけてくれる。
「でもギョウザ屋のあの娘のほうがかわいいかな」
「ねえ、あいつの実家のこと聞いてる」
「いろいろね」ミミちゃんも自分のタバコに火をつける。
「あいつはどこに行ってるの」
「この前の社長さんにお店紹介してもらったみたい。稼げるし」
「僕でも行ける店かな」
「高いらしいよ」
「そうか」
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