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「あれからお店には来てくれないんですね」

 箸でギョーザをつまみながらミミちゃんが言う。

「そんなにギョーザ食べて大丈夫なの。これからお店なんでしょう」

「そんなに臭うかな」

「まあ、ここのギョーザはサッパリしてるけど」

「お客さんにも食べさせるから大丈夫。そんなお行儀のいい店じゃないから」

「たしかに」

「大連のおじさんから聞いて、ここのギョーザが食べたいってお客さんがいて」

「それでここに来たの」

「営業も兼ねてね」

「きれいな部屋ですね」

「もっときたないと思ってた。書類とか山積みになってて」

「依頼も少ないから、書類も増えない」

「ごちゃごちゃしてるって聞いてたから」

「あいつから。おたがいに片付けるのは苦手だったからね」

「人って学習するんだよ。それにあいつはここに来たことないし」

「そうみたいですね」そう言ってミミちゃんが笑う。あいつの部屋はちゃんと片付いているのかな。ゴミに埋もれていたりして。

「あいつはミミちゃんと住んでるの」

「知らないんですか」ミミちゃんは少し驚いたような顔をした。

「一時避難してきたけど、今は実家に戻ってるんです」

 今度は僕のほうが驚いている。

「コウちゃん、お客さんのギョーザ持ってきた」

 フミちゃんがギョーサの入った袋を持って事務所に入ってきた。

「びっくりしました。コウちゃんの行きつけのスナックの人がギョーザ買いに来るなんて。本当にありがとうございます」

「行きつけっていってもだいぶ前の話だけどね」

「久しぶりに行ったんですか」

「そうなんです。あたしもびっくりしちゃって」

 ミミちゃんが僕のほうをチラリと見てから笑顔で答えた。

「それじゃ、あたし行ってみます。また来てくださいね」

「そうだね、そのうち」

 ギョーザの入った袋を下げてミミちゃんが部屋を出ていく。ミミちゃんがすわっていたソファーにはフミちゃんがすわっていた。僕は皿に残っていたギョーザをひとつ箸でつまむ。僕とミミちゃんのウソを見透かしたようにフミちゃんがぼくを見ながら微笑んでいる。

 どこまでわかっているのだろう。

「何かの依頼。ギョーザ買いに来ただけじゃないみたいだったけど」

「彼女の友だちがごみ溜めちゃったみたいで」

「キン兄に頼むの」

「今日は話を聞いただけだから」

「戻らなくていいの」

「戻るよ」フミちゃんはそう言って事務所から出ていった。ミミちゃんの言っていたことが気になるなあ。

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