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「久しぶりね。本当に探偵になってたんだ」

「今のところはカッコだけだけどね」

「依頼はないの」

「はじめたばかりだし。何でも屋みたいなもんだよ。まさか自分のやっていた仕事が役に立つとはね」

「役に立ってるの」

「役所関係の書類はほとんど僕が作っていたからね」

「つまらないとか、イヤだとか言いながらね」

「それがさ、同じ仕事でも楽しいんだ。会社でやってるときは苦痛だったのに」

「不思議だね」

「それよりお前が水商売とはね。たしかに酒は強かったけど」

「友だちに頼まれて手伝ってるだけだけど、あなたと同じで意外と楽しいの」

 まさしく場末のスナックといった感じの店だった。ママはかなりの年齢のように思えた。昼間外ですれ違ってもわからないかもしれない。あいつの友だちはママじゃなくて、もう一人の女の子ミミちゃんのほう。高校の同級生だっていうことだけど、もちろん僕は知らなかった。

「あとでもう一度からずいぶん長かったよね、連絡くれるの。お母さんから聞いたの」

 あいつからかかってきた電話は非通知ではなかったけれど、知らない番号だった。

「ちがうよ。最近お母さんとは会ってないし、電話もしてないから」

「それじゃどうして。もうかかってこないと思ってた」

「大連のおじさんから聞いたの。あなたが来てナシゴレン食べていったって」

「大連にはよく行ってるの」

「近くだし」

 ドアが開いて客が入ってきた。僕の知らない人だったけれど、入ってきた客はぼくのほうじっとを見ている。

「ごめんね」そう言ってあいつは入ってきた客を奥のボックス席に案内する。

「フラれちゃったね」

 ミミちゃんが僕の前にあったグラスにウイスキーを注ぐ。ママが目配せをするとミミちゃんもボックス席のほうに行ってしまった。

 僕は一人になってポケットからタバコを取り出した。タバコをくわえるとママがライターで火をつけてくれる。

「ごめんなさいね。ナナちゃんは社長のお気に入りだから」

「別に、いいんです」

 あいつはこの店ではナナという名前らしい。

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