1-8
女は男と話をしている。僕はラウンジの奥からその様子をじっと見ていた。
普段はほとんど縁のないオシャレなホテル。あの女にはこっちのほうが合っているかな。でも情報源が僕同様こんな場所とは無縁だからなあ。
「デリヘルの女じゃないの」
「見かけたことあるの」
「あるよ」
完全に振り回されてしまった。山ちゃんは人づてに聞いただけだったらしい。
「やたらきれいなデリヘル嬢がいるって」
「ただ特別高いらしいんだ」
いったいこの情報が、どうやって僕の依頼人とつながってしまうのか。どう考えても山ちゃんの勝手な思い込みなのに。
それでも全く的外れっていうわけでもなかったようだ。やはりあいつとの関係を聞いておけばよかったかな。本当のことは言わなかっただろうけど。仕事とは言っているけれど、この件について僕は正式に依頼を受けていない。というより、依頼人の女性には「知らない」で押し通した。
そう、僕は彼女からの依頼は断っていた。あいつからあのタイミングで電話がなければ、僕だってこんなふうにかかわる気にはならなかったと思う。
「電話があったんですけど」
久しぶりにあいつの実家に電話をかけた。
「だから何なんですか」ヒステリック母親の声が耳に響く。
「かけなおすって言ったんですよ。でもかかってこないんです」
「ご自分でおかけになってみたらいかがですか」
「かかってきたのは非通知で、僕の知ってる番号はもう使われていないんです」
「ケータイの番号教えてくれませんか」
「私も知らないので」
そう言って電話が切れてしまう。
女は男とエレベーターのほうに歩いていく。コールガールなのか、それとも同業者か。二人が乗ったエレベーターが上に上がっていく。二人以外にも何人か乗っていたのでどの階で降りたのかはわからない。女はともかくあの男にこのホテルは似合わない。僕の調べたところでは相変わらずあの会社には在籍しているようだけれど、窓際に追いやられてしまっているらしい。
やはり女のほうが堂々としている。
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