第2話 ピザとコーラを44人分

「ああ、そうだ! ピザとコーラを42人分だ! さあ、急いでくれ。領収書? いやいや、ウチじゃないよ! そんなに負担してたら破産しちまう! 国アテの領収書だ!」

 ジャックは通話機に怒鳴っていた。


「ジャック警部、ジャック警部」

 腹の出張った機動隊員がそう言った。


「まあ、落ち着いてください。私はリュウ・スワンっていいます」

「これが落ち着いてられるか!」

「ともかく、ピザとコーラは44人分にして、我々も食いませんか?」

「何・・・?」

「ともかく、ハラごしらえがないと戦えないでしょう。まあ、僕はハラごしらえだけやってるのでこんなになっちまいましたが、ワッハハハ!」

 リュウは笑っていた。


「ああ、そうだな・・・よし、ピザは44人分にしてくれ」

 ジャックはそう言った。

「僕はこの国にきて、警察官をやって二十年ですが・・・恐らく史上最大の事件になるでしょう。この十年、色々とありました。大統領が二度、汚職で捕まった。聖堂衛兵団の団長が、淫夢魔サキュバと無理心中で死んだり、聖女が巨人と駆け落ちて、アソコに巨根を突っ込まれた状態で見つかったりもしました。・・・そして、”勇者”も死んだ」

「ああ、そうだな」

「しかし、今回が僕にとって最大のヤマとなるでしょう。その解決の役割は、ジャックさん。あんたに賭けられたんですよ」

「カンベンしてくれ・・・俺は通信教育で刑事になったんだぞ!? 聖騎士だの傀儡魔術師だの、あんなバケモノの相手ができるか!!」

 ジャックは家に帰って、妻と一緒にビールをやりたかった。


「まあまあ、おっと、ピザが届いたようだ。ともかく、ジャック警部。あんたが役割をやるしかないんです。どういうワケか、聖騎士様はあんたを気に入ったんだ」

「・・・こんなこと、妻になんて話せばいいんだ?」

「『ベストを尽くした』と帰ってから話せばいいんです」

 リュウは真剣な目つきだ。

 ジャックは、彼が自分の味方で良かったと考えていた。

「犯罪者を相手に、勝ちの確約なんてない・・・ベストを尽くす以外にはないんですからね。さあ、そろそろ奴らの第一声があるでしょう」

 マスコミも集まってきている。

 これから、ジャックのことも、恐らくその娘のこともどんどん暴かれていく。

 例えば、娘は少しばかり難聴だったり、ということも白日の下となるだろう。


 アカネイアは、ゆっくりと歩いてきた。

 仮面を被せられている。

 ジャックは心を痛めていた。

 あれは、友人のアカネイアだが、明らかに様子がヘンだ。

 ならず者稼業から足を洗ったばかりのアカネイアが、何をさせられるのか。

 ともかく、仮面のアカネイアは、取材陣の集まる前の銀行の入り口まで歩いてきていた。

 フラッシュが焚かれまくる。


「・・・マスコミよ、よく聞きなさい。私は傀儡魔術師によって、操られており、体内には傀儡魔術師による”人体爆弾”が仕掛けられている」


 マスコミは一斉に後ずさっていった。


「我々は、『世界の平和』のためにこれをやっている。まず、一歩でも警官による立ち入りがあった場合、その度に人質を殺していく。ここでの通話は、全て我々聖騎士一行に筒抜けだ」

 ジャックは怒鳴っていた。

「何が平和のためだ! この下衆め! アカネイアを解放しろ!」

 ジャックはそう言った。

「その子は、ごく最近、ならず者から足を洗えたばかりなんだ! お前はインチキ野郎だ!」

「・・・ジャック。今は、我々の声明を聞いてもらおう」

「くそったれめ!」

「ジャック、君は恐らく目撃することになるだろう」

 アカネイアの口から、言葉が漏れた。

「何のハナシだ!?」

「何故・・・この世界で、”魔力”が尽きることがないのか。その全容が明らかになる」

 アカネイアの唇から言葉が漏れ、そして彼女はピザとコーラのたっぷり入った容器を持って中へと歩いていった。


「魔力が・・・? 何のことだ?」

 ジャックは呻いていた。

 そこに、重騎兵の乗った騎馬隊がやってきていた。

 重騎兵はそれぞれ、斧やハンマー、槍で武装していた。

「ジャック警部・・・国境警備騎士団ボーダーリッターです! これは大物ですよ・・・」

 リュウが叫んでいた。

 

 国境警備騎士団ボーダー・リッター

 この大陸の事件の全決定権を持つ騎士団である。

「ふーるるるうう、聖騎士狩りの始まりダアア」

 戦闘の金髪の女は、顔中が傷跡だらけだった。

 しかし、その二の腕は男の戦士顔負けであり、二本の斧を背中に吊るしていた。

 騎士団は、ジャックたち機動警官の集まる周囲で立ち止まって、馬からひらりと舞い降りた。

国境警備騎士団ボーダー・リッターの団長アンリだ。あんたが現場を?」

 アンリはそう言った。

 これが、一騎で百の戦士に値するというボーダーリッターの団長か。

「はい、私立刑事のベン・ジャックです」

 アンリはおかしそうに、

「私立刑事イ? だってそれって、通信教育で成れるヤツじゃんか? よく、教育系の宣伝のヤツに載ってるぜ?」

「ええ、そうです」

 やれやれ、俺は今夜何度言われることになるんだろうな。

『君は通信教育を受けたのか』って。

「オーケイ、まあいいわ。知ってるわよな? 俺たちは、この大陸での事件の全決定権があるの。それって、習ったかい?」

 アンリは、こちらへの侮蔑を隠そうともしないようだ。

「ってなワケで、そこをどきなさい。ここは、俺らが預かる」

 アンリはジャックにそう言った。

 やれやれ、どうやらこれで俺は家に帰れそうだ。

「ベストを尽くした」とは言い難いが、ともかくこんな凶悪事件はゴメンだ・・・


「聖騎士! 出てこないなら、二分後に突入する! 言っても無駄だろうが、一応遺言書とかを書くくらいの時間はあるぞ! ようし、お前ら、二分数えろ!」


ジャックは仰天していた。


「バカな! 奴らの話を聞いてなかったのか!? ”人体爆弾”ってのが人質に取りつけられているんだ! 警官が立ち入れば、殺していくと・・・!」

「だから、どったの? まあ、十人か二十人くらいは死ぬだろうけど、警官の仕事ってのはそーいうモンだぜ? おら、どけよ。通信教育さん。死にたくはねえんだろう? おら、ここは俺たちに任せて、家でビールでもやりな」

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

パラディン・バンクジャック~聖騎士は銀行をジャックした~ スヒロン @yaheikun333

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ