第10話 9-1
/5 午前九時二十分
〝有馬静希〟
頭が……痛い。
ひどい頭痛だ。
「頭が痛いのかしら?」
「……っ!」
「あら、ごめんなさいね。加減はしたつもりだったのだけれど、ガラス瓶で殴ってしまったせいね」
ガラス瓶……か。
そりゃ痛いわけだ。
そういえば時間はどれくらい経ったのだろう。軽く一時間は言っているじゃないかと思うが、実際のところ、そこまで経ってはいないだろう。
俺に関して言えば姉の話ばかり聞かされて、もううんざりと言ったところだ。
「まあどっちにせよ、殺すつもりだったしね。死んでもよかったのだけれど」
「……なあ」
「なにかしら?」
「こっちから質問しても、いいかな?」
「ええ、どうぞ」
俺は姉から視線を外して、目を伏せた。じりじりと体が焼かれていくような感覚。まあ、こんな状況になれば誰だって緊張する。
「直紀にお遊びを教えたのは、あんたなのか」
「ええ、そうね。もともと直紀は私が直接手を下さないようにするために育てたものだから。それが暴走して連続殺人なんて起こすものだからたまげたわ」
「……あんたは誰だ?」
「────」
「ずっと、思ってたんだ。俺があの西館へ来るとき、廊下の窓から姉が見えたんだ。白い彼岸花の咲く、あの庭にいた。俺はその直後、
西館のほうへ行った。けっこう奥まで行ったんだよ。だっていうのに、すぐあんたは現れた。本当はつけていたんだろ、俺のこと」
「……ふうん。まあ、好きに言ってればいいじゃない」
図星、か。
じゃあこの人は誰なんだ。
それを考えると、背筋がぞくりとした。恐怖というものだった。
「ごめんね。やっぱり、黙ってて」
唐突にそう言われ、口を再びガムテープで塞がれた。彼女の声はどこか焦っているような様子が見られた。
/6 午前九時三十分 有馬邸
〝藍沢雅臣〟
「よし……!」
ピッキングは成功。だが針金は壊れてしまった。
だが鍵が開いたと思った瞬間、音は鳴った。それはおそらく向こうにも聞こえているのだろう。
心臓は大きく高鳴る。破裂してしまうんじゃないかと思うぐらいだった。脂汗が額から噴き出して、右目に染みる。痛覚は健在。だが目の前のことが大きすぎて、痛いという感覚すら忘れてしまった。
覚悟を決めよう。
もしかしたら待ち構えているかもしれない。
僕はドアノブを握りしめ、大きく音を立て、そのドアを素早く開けた。
……誰も、来なかった。
てっきり犯人が襲いに来るのかと思ったが、来なかった。
間違いだったのか、なんてことを考えた。でも、まだそんなことはわからない。
おそるおそるその一歩を踏み出した。
今のところ部屋に存在しているのは静寂と────一つの人影だった。それに光を当てる。
額に血がついている。頭部を殴られたのだろうか。それ以外に外傷はないようだった。
「っ……! 静希くん!」
「────!」
静希くんは僕を見つけては、目を大きく開けて、驚いていた。首をバカみたいに横に振って、静希くんは僕に何かを伝えようとしているのがわかった。
僕はその口をふさいでいるガムテープをはがした。
「後ろッ!」
ただ一言、部屋に響き渡るぐらいに大きな声でそう言った。
「あ……」
背中。本来、入ってはいけない異物がずぶりと入ってくる。その瞬間、背中はどんなものよりも熱くなった。直接火をつけられたのか、と思ったぐらいだ。
だが、違う。
刺されたんだ。僕は有馬直子に刺された。
やばい。やばい。やばい。
目の前が揺らぐ。歪曲した空間。まるで異世界だ。
意識は
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