第8話 7-1
終 章
愛 憎
/0 午前七時五十三分 有馬邸 執務室
〝有馬誠〟
誠は無力なまま、ただその部屋でうずくまっていた。執務室。自分が自分でいられる数少ない居場所。だが、そこもすでに地獄へと変わり果てていた。
「ゆ、ゆるしてくれ……私は、ただ……!」
愚かだ。あまりに愚かで、虚しく、目を向けることさえ
「ただ? あら、続きは言わないの、お父様?」
その女性の光が灯されていない瞳は、腰が抜け、崩れかけの精神状態の男に向けられていた。
「ふうん。なんか臭うと思ったら──お父様。あなた、失禁してらっしゃるわねえ? ふふ、本当に無様」
笑う。
「別にお父様を追い詰めるつもりではなくてよ? 私、そのようなはしたないものは好ましくはありませんので。でもね、お父様。少しお話したいの。お父様──〝パパ〟なら、聞いてくれるよね?」
彼女は、彼をそう呼んだ。
「ひ、ひぃい……!」
「もう。またこんなに出して……汚いわ」
そう言って彼女は男の顔を蹴りつけた。右頬をめがけて、彼女の左足のつま先が衝突する。その瞬間に男の顔は勢いよく左に向いて、その口から軽く血が噴き出していた。それと一本ほど歯が飛んでいた。今の蹴りで歯が取れてしまったのだろう。
「お……おまえ、なんで、こんなことを……!」
「なんでだと思いますか?」
「お、おれが……なにをしたっていうんだよ……!」
「禁忌よ」
そう、禁忌。罪より重いもの。罰することだけでは済まされない、忌まわしいもの。
「きん、き?」
「あなたのやったことはほぼ蘇生に近い。死んだものを生き返らせる、なんて。追放どころじゃ済まさないわ」
その言葉を聞いて、誠ははっとした。
「アレは、お前たちのことを思って!」
「うれしくないわ。でも、どうせ嘘でしょう? 本当のところは、自己弁護でしかない。当主たる自分の立場を守るため。だってもし、次期当主の座が空いてしまったら、誰だって不審に思うわ。いざとなれば調べて、事件の真相をつかみ、それを利用してあなたを手中に陥れることも可能なのだから」
「……」
「私はね、この有馬の血が許せない。滅ぼしたい。消したい。そういう想いでいっぱいなの。予定よりは少し早かったけど、直紀もいなくなった。あとは残りは……わかるでしょう?」
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