第7話 6-3

 俺がまだ、次期当主としていたころ。

 いつも、俺の後ろについてきていた少年がいた。いつもきらきらと目を光らせて、俺を見つめていた。

 最初はそりゃ、うっとおしいと思っていた。俺はもちろんのこと、忙しいのだし、弟と遊んでいるひまなどこちらにはないのだから。

 でも、弟は俺がなにかをするたびに、


「兄ちゃんすごい!」


 なんて、馬鹿げたことを言っていた。それは俺にとってみれば、嫌味なのか、と思っていた。でも、だんだんとわかってきた。それは単純な、俺への憧れだったのだと。


「直紀」

「うん、なに?」

「お前、いつもなんで後ろついてくるんだよ?」

「兄ちゃんが好きだから!」

「っ……! あのなぁ、それももうやめろ。おれは忙しいの。お前なんかに構ってるひまなんてないんだからな?」

「……」

「あ、いや、別にな、直紀が嫌いとかそういうわけじゃなくって。あぁ、もうどうすれば……!」

「……かっけぇ」

「は?」


 本当に、今となってはくすっと笑えてしまうようなものだった。


「だってそれって、兄ちゃんの──えっと、とうしゅさま、のそんげんってやつなんでしょ!」

「はぁ?」

「うん、すっごくかっこいい! ぼく、兄ちゃんみたいになりたい!」


 そのころ、少年はだいたい小学一年生ぐらいだった。だから純粋なのはわかるけれども、ここまで正直に兄に対して憧れを表すのは珍しいことじゃないか、と思った。

 でも、正直嬉しかったんだ。

 両親からの期待というやつは厳しくて、冷たいものだったけれど。

 その期待というのは、あまりにも歪で、血生臭いものだったけれど。

 弟からの期待と──憧れというやつは、暖かいものだった。

 だから、正直に言えば。こんな血の臭いがする俺の後ろをついてくる、うっとおしい少年のことを、俺はかわいく思っていた。

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