第7話 6-1

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 殺人鬼はのらりくらりとしながら、街中を歩いていた。

 夜の街。人が絶えず存在している。それらを見るだけで興奮気味になる狂気性は、殺人鬼の血からくるもの。

 誰かに憧れて、そうなりたいとその人の背中を追って。

 その結果、自分という存在がわからなくなってしまった。

 いよいよその時には、自分の支えであった憧れも憎悪の対象となってしまった。

 だって、その憧れの者が余計なことさえしなければよかった。

 そうすれば、自分がこんな化け物に変わることなど、なかったはずなのだ。


 殺人鬼は後悔を謳った。

 殺人鬼に残る人間らしい感情はいずれゴミクズとなる。完全な化け物は人間性なんていう不完全性は捨てなければならない。それこそ化け物、という正体以外に人間なんて正体はいらない。

 殺人鬼はそう教えられた。

 夢を失くし、憧れであった道しるべさえも遠い場所へ行ってしまった殺人鬼には、そんな余計な『自分』を排除する方法を教えられた。

 これはかつて──憧れの者にも教えられていたことらしい。あくまで義務的な、そういった仕事上での事情なので仕方がなかったことらしい。

 殺人鬼の製造方法なんて、そんなものなんだと呆れていた。


 殺人鬼はおぼつかさない足の動きのまま、視線はあちらこちらに向く。自分に合った獲物を見つけるために──。

 いや違うか。殺人鬼はただ、別の憧れを探しているんだ。あるいはその憧れの対象が、自分であればいいというもの。おそらく自己暗示に似たことをしている。

 殺人鬼はもう二度と裏切られたくない。

 憧れから、拒絶されたくない。

 だから、自分を拒絶することを絶対にしない人物を探している。その結果、殺人鬼自身だけだった。複数のうち、もっともむなしい一つの正解。


──ああ。


 殺人鬼はとうとう獲物を決めた。

 自分の肩にぶつかり、こちらをにらみつける中年男性。外見は柄物のシャツの上に黒いスーツジャケット。目つきの悪い、髭面。

 殺人鬼はなぐられる。頬に傷がつく。殺人鬼は立ち上がり、その男性をにらみつける。すると思った通り、にらみつけられた男性は喧嘩を売られていると思い、こちらに迫ってくる。

 そうして殺人鬼が逃げる。それに追いかけていく男性。

 殺人鬼が目指す場所は路地裏。

 そして路地裏につき、男性は息を乱して殺人鬼に迫る。そうすると殺人鬼は隠し持っていたナイフで男性の首を切る。

 それからはただの作業。駆け引きもクソもない。ただの単純作業なのだ。

 いつも通り、解体するだけだ。


 この時間は、本当につまらない──。


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