第6話 5-2
/4 午後十九時一分 有馬邸
〝藍沢雅臣〟
「事件の調査については、どうなっているのかな?」
買い物から帰ってきて、ロビーに入ったとたん、当主であり依頼人である有馬誠殿が僕を呼んでそう問いかけてきた。やはり依頼人たるもの、そういう過程は気になるものなのだろう。
「順調に進んでおります」
白状すると順調、というほどではないけれど。
「犯人はもうわかったのか! その証拠は! どこにある!?」
すると突然、誠殿が額に汗を浮かべて、ロビー内に怒号を響かせた。いきなりなものだから僕の肩は少しびくっと震えてしまった。
「順調とは申なぜだ!たが、その段階まではまだ達してはおりません」
「なぜだ! この有馬家にいるのはわかっているはずだろう。あとは簡単なことじゃないか!」
たしかに、犯人捜しだけなもっと早く済ませられるかもしれない。だが──
「しかし誠殿。犯人捜しだけであれば私はもう少し早く仕事を進めますが、最終的な依頼達成条件が『犯人殺し』であるなら、もっと時間をかける必要があります。それこそただの犯人捜しよりも正確に、です」
「くっ……! と、とにかく頼むぞ」
そう誠殿が言い終えた瞬間に、玄関が大きく音をたてて開いた。そこには、暗い雲のようなものを顔に浮かべた少年──有馬静希であった。少年は僕たちのほうを少し見つめて、とくに表情に揺らぎはなく、ただその暗い顔で自分の部屋へ行ってしまった。
それを誠殿は見ていたが、最後には、
「ふん」
と鼻を鳴らして、そのまま少年と同様に自分の部屋に戻っていった。
ああいう性格だからおそらく、仕事上で敵を作っているのではなかろうか。
「はあ……」
ため息を大きく吐いて、疲労という重荷を感じ取っていた。
そして僕も、まず食材のつまった買い物袋をどうにかしようと食堂へ向かった。
それと、以前電話で聞いた有馬建設の裏のことも気になる。
なぜ龍源寺の主人の弟が失踪してしまったのか。
その失踪事件に対して怯えを感じていた人たちのことも怪しい。
これほど謎が増えることがあるだろうか──。
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