第5話 4-1
第 二 章
憧 れ
/0 午後十二時二分 有馬邸 執務室
〝有馬誠〟
有馬誠は、終始苛立ってばかりだった。
もともとそこまで我慢できるような大人しい人柄ではない。
それにしてもここまで報告がこないということはいったいどういうことなのだろうか。とくにまだ目立つようなことはわかっていない、ということなのだろうが、このままでは殺されてしまうのではないのかと身はじっとしていられないのだ。
しかし──ここで下手に動けば、誠は確実に殺されてしまうだろう。
おそらく犯人は給仕として迎えた藍沢雅臣のことを警戒しているだろう。
つまり、誠のたくらみに少しずつ気がついてきたころかもしれない。
もしや、今朝、情報番組で報道されていた連続殺人事件は、誠に対する脅しなのかもしれない。
少しずつ、少しずつ男の胸中は警戒心で埋めつくされてしまう。余裕がなくなり、息は絶え絶え。切羽つまった状況にすっかりはまってしまっている
有馬一族を恨む者。
それが内部にいるとなると、給仕か……?
しかしそれほど恨まれるようなことはしていないし、彼女らの個人に干渉したことなど一切ない。
ならば、やはり有馬家のなかにいるというのか。
未だに信じられないが、どう考えてもそうとしか思えない。
思えば──我々は元来、間違いを犯してきた一族であった。
同類であるはずの生き物たちを、我々はそれを
近親相姦を繰り返し、未だその異常性を引き継いでしまったがためにあんな──。
誠はその血を利用したわけだ。
そうすることで有馬家の存続と私欲を満たすことができたからだ。
それを憎まれた──と考えれば、おかしくはない。三流ではあるが、筋が通ったシナリオだ。
血、というのは厄介なものだ……。
誠は本棚から有馬家の歴史が手書きで書かれていた、古書を流し読みしていた。そうして、誠はそれを再び本棚に戻し、席についた。
木製のデスクの引き出しから、手帳を前に出す。
そこに遺書めいた文章を書きつづっていた──。
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