第4話 3-1
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〝級励a薙繧ァ縺ィ〟
夜。夜。夜。
バグだらけの夜を噛み砕くかのように目を覚ます殺人鬼。
殺人鬼はその瞳を光らせる。その場の空気が血濡れた鋭利な刃と化す。そう、そこはまるで異界のようだった。いや、そもそも殺人鬼がいる場所というもの自体、異界そのものなのかもしれない。つまり、その存在自体が異質。
殺人鬼の姿は、少年のようにも少女のようにも見える細い体。しかし、暗闇でその姿は明かされることはなかった。意識が
その
ロビー。玄関。赤い彼岸花が咲く、庭。門を抜ける。
足はずっと不安定なまま。今にも転びそう。けれど転ばない。そんな予測不能な動き。怪物、怪人。怪しい動きをする、人間。もしくはもうそれは人間ではないのかもしれない。
街へ向かう。今の時間帯、もう人はあまり通らない。いるのは社会不適合か、酔っ払いか、残業で遅くなった会社員。
「────」
誰かに話しかけられた、殺人鬼。
いや、そもそも殺人鬼がその男の肩にぶつかったのだ。
それで男は怒っている。しかもその後ろには殺人鬼をにらむ失敗した
殺人鬼は奇妙に唇をつりあげる。その動作に男ともどもさらに頭を沸騰させて、殺人鬼の腹に一発、拳をめりこませた。殺人鬼は吐しゃ物を吐く。それではしゃぎにはしゃぎまくる、どうしようもない若者たち。殺人鬼は吐いたあと、倒れた。
それから、どこかもわからない場所に連れてこられた殺人鬼。
路地裏みたいだ。そこにいるのは殺人鬼と、さきほどの若者ども。若者どもは何やら殺人鬼に暴力をしようとしていたみたいだが、目覚めたことに気づき、その動作を止めた。
「────!」
若者どもはいまだに怒っている。いや、また怒りを抱かせた、というのが正しい。殺人鬼が目覚めたことで、できることもできなくなってしまった。
そこで若者のリーダーらしい男がバットを持って、殺人鬼の背中にフルスイングした。
今度は真っ赤な血を吐く。それが地面に撒き散らかせて、若者どもは笑う。
けれど、殺人鬼はその痛みに叫ばなかった。激しい痛みに耐えかねて、助けて、と叫ぶようなことはしなかった。ただひたすらに黙りつづけていた。その様子に、バットを持っている男は顔を歪ませた。おそらく気味が悪い、とでも思ったのだろう。
その瞬間が、ねらい目だった。
殺人鬼はその男の肩に噛みついた。狂犬らしく、獣らしく、あるいは鬼らしく、その肩に歯という刃を刺しこんで、ちぎって、えぐった。断末魔を叫びながら、男は必死に抵抗する。他の若者どもは、その様子に驚いたあまり、動いていない。
殺人鬼はその肩にかぶりついて、その肉を喰った。
────視界が赤くなる。
まるで鬼にでもなったように、その瞳を赤くさせた。
殺人鬼が喰らいつづけた結果、その肩はほぼなくなった。そこに人間らしいマナーや上品さなどなく、粗削りで破天荒な、獣性だけに特化した喰い口だった。
男はすでに死んでいた。殺人鬼はそれでも喰らう。
それで、ようやく我に返った若者の一人がナイフを持って殺人鬼の背中を刺そうとした。────瞬間、ナイフの切先はすでに赤く血濡れた手でにぎられていた。殺人鬼はその右手で、ナイフの刃をぎゅっと握りしめていた。どんなに若者が力をいれても、殺人鬼は手に傷を作りながらも、それを強く握りしめていた。
そして殺人鬼はそのナイフを強引に奪い取り、その若者の眼球の端を、ななめに刺した。断末魔と血が飛ぶ。若者は必死に抵抗する。殺人鬼の胸を手で押す。けれど、その反動でナイフが動いて、余計に眼球が痛んだ。
殺人鬼はそこでななめに刺したナイフで、ぐりぐりと動かした。それはまるで、何かをえぐっているかのようだった。否、殺人鬼は眼球をえぐっていた。十秒ほどでえぐりとれた眼球は、すぐに殺人鬼の口内に入った。
食感はうずらの卵みたいだった。それよりも少し硬かったけれど、奥歯で眼球を噛み砕いて、そのなかの苦みのある味を口内にあふれさせた。苦みはどんどん強くなってくる。それを殺人鬼は──おいしい──と感じていた。
加速していく殺人鬼の衝動。
殺人と食人の欲求が殺人鬼の体をうずかせた。切り裂きたい、嚙み砕きたい、むさぼりたい、人間としてありえない欲があふれるばかりで、まるで言うことがきかない心。けれど、それはいずれ体をも侵食していった。侵食され、本来の自分がいなくなったのだから、仕方がないことだろう。そう、仕方のないことなのだ。それぐらいは、許してくれてもいいものだろう。
殺人鬼にわずかに残っていた人間性は、白からすでに黒に切り替わろうとしていた。
反転。自分と自分が入れ替わる。ありえない衝動が、本来の自分を呼び覚ます。
殺人鬼はつぎつぎに若者を殺していく。
血、肉、骨、すべてをたいらげる。おかしな
最後の若者に、殺人鬼は殺人鬼なりのやさしさを見せた。
若者は恐ろしいあまり失禁している。股のあたりが濡れていて、尿の匂いが
その若者の前に、そいつの仲間の肉やら目玉やら指やらを投げつけた。殺人鬼は一言──「喰え」と言った。
これは殺人鬼なりの優しさだった。最期の晩餐、というものを提供したのだ。けれどメニューが最悪だ。気が狂ってカニバリズムに目覚めた人間ならまだしも、今まで悪行をしてきたけれど、人間としてまっとうである若者にとって、これはとても口にできない。
「こ……これで、見逃してくれるのか……!?」
殺人鬼はうなずいた。
嘘かもしれない。喰ったあとで殺されるかもしれない。そんなことはもちろん若者も予想していた。けれど、切羽詰まった状況のなかで若者が考えることはただ生きたい、というものである。感覚はとうに狂っている。
若者は試しに肉を口に入れた。味は豚と牛の間のような感じで、食感は普通の肉よりも少々硬い。それを奥歯で噛み続けて、ごくりと飲み込む。数秒すると、吐きそうになったが、それはどうしてもこらえる必要があった。吐いてしまえば、殺されてしまう、と思ったからだ。
次に指。誰のかもわからない、親指とおぼしきもの。爪はない。殺人鬼は食べやすくするために、爪は先に剝いでおいたのだ。しかし若者にとっては、さらに吐き気を誘うものでしかなかった。それでも若者は必死に耐え、その指を口に入れた。骨があって、なかなか噛み砕けない。骨は捨ててしまおう、とも思ったが、もしそれで殺されてしまったら──と考えてしまった。それから若者は奥歯が欠けて、血が出てしまったが、その骨を見事に噛み砕いて、飲み込んだ。
次に、最後に残しておいた眼球。もはや誰のかもわからないものだ。一番食べにくく、自然と避けてしまっていた。遅かれ早かれ、いずれ食べてしまうというのに。
若者はその眼球を口にいれて──その頭蓋が割れた。
殺人鬼はバットを隠し持っていた。その金属バットで若者の頭蓋をかち割ってみせた。その際に割った本人まで鈍痛を覚えそうな、鈍く、乾いた音が聞こえた。眼球が飛び出そうな勢いで隆起し、血の涙を流していた。
────夜に咲く、彼岸花のように赤い鬼。
殺人鬼は腹を満たしたのか、何個か肉片と血痕を残して、その場を去った。
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