第15話 天使の服を求めましょう
考えてみれば、姉とどこかに
朝十時過ぎ。前を歩く天使と
「ショッピングモールとはどんなところなのだ?」
「そうね~。お目当てのレディースファッション店で服選びをしたり、美味しいアイスやたこ焼きを食べ歩いたり、ゲームセンターで遊んだり、とにかく色んなことをして一日中時間をつぶせる場所って感じかな。――ショッピングモールってアメリカにもあるでしょ。
伊予の何気ない質問に、天使が何と答えればいいかと背後の界斗に視線を送ってくる。
まさか実は杏は天使で、別の世界からやってきて、その世界にはショッピングモールなんてものがそもそも存在しなかったんです、などと答えられるはずもない。答えた
界斗は自らの身を守るため、慎重に言葉を選びつつ伊予の疑問に答える。
「ああ、実は杏の住んでいたところってかなり田舎らしくてさ、ショッピングモールはなかったみたいなんだ」
「なんであんたがそんなこと知ってるのよ」
「昨日の夜に聞いたんだ。杏から《ショッピングモールってどんなところ?》って質問されたときに」
「じゃあ何で杏ちゃんはまた同じ質問を私にしてるわけ?」
「そ、それは……」
言葉を選んだ
「ほら、言ってみんさい。――どうして? どうしてなのかな?」
ぶっちゃけ真実なんて二の次で界斗をいじるほうが優先とでも言うように、伊予は楽しげに界斗に詰め寄る。
そんな
「こ、
という背後からの声だった。
振り返れば、声の主は界斗のクラスメイトである
ここは秋葉原電気街でオタクの街。つまりオタクである田辺のホームとも言える場所であり、彼とここで出会ったことは何ら驚くべきことではない。
「モブオくん、この人たちはだれ?」
界斗が驚いたのは、田辺の隣に可愛らしい一人の女の子がいたことだった。
歳は小学生高学年くらいで、前面に英字がプリントされた白のTシャツの上に薄いピンク色のカーディガンを
田辺の妹だろうか。
「え、えーとね、僕が知っているのはこの男の人だけなんだけど、彼の名前は古遣界斗くんって言って、僕のクラスメイトなんだ」
「ふーん」その女の子は
「あなたが界斗さんね」
界斗のことを一方的に知っているかのような口ぶりである。田辺から聞いたのだろうか。
「君は?」
「ごめんなさい、自己紹介がまだでした。私の名前は
「東雲って……ひょっとしてラッキーの妹?」
「ラッキー?」
「あ、ごめん、ラッキーっていうのは
「ええ、兄から界斗さんのことは度々伺っています。頭がよくてバドミントンもお上手で、それによく相談に乗ってもらっているとか」
その相談の内容がまさに美衣香自身についてだというのは、どうやら聞かされていないようだった。まあ、界斗が政也の立場だったとしても言わないだろう。
「界斗~、先に行っとくよ~」
話が長くなりそうだと感じたのか、伊予は天使とともにショッピングモールへ先に向かうようだ。
「ああ、後で追いつく」
界斗の返答に伊予は背中を向けたまま片手をひらひらと振って答え、そのままこの場を立ち去った。
「あ、お友達を待たせてしまいましたか」
「いや、友達っていうか、姉と……」
界斗が天使との関係性を何と表現しようかと悩んでいると、その沈黙を誤解した美衣香が、
「もしかして彼女さんですか。これは失礼しました」
とぺこりと頭を下げる。
「いや、彼女でもないんだけど……」
何とも煮え切らない答えに美衣香はこてんと首を可愛らしく傾げ、だけど結局は気にしないことにしたのか、別の話題を界斗に振ってくる。
「どちらに向かわれるのですか」
「パトレ。さっきの白い髪をしたほうの女の子の服を買いに行こうと思って」
パトレとはパトレ秋葉原という駅前にあるショッピングモールのことである。駅前には他にもホドバシカメラやアキバ・ソリムなどがあるが、伊予が「この辺だとパトレがファーストチョイス」と言ったので、まずはそこから回ることになっている。
「パトレいいですよね! この前に服屋さんを見に行ったことがあって、色んな可愛い服がいっぱいだったんですけど、お値段がどれも高くて私のお小遣いじゃあとても買えなくて、結局ウィンドウショッピングになっちゃったんですよね……」
しょんぼりと肩を落とした美衣香は、さながら耳を折った兎のようだった。
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