第82話 前哨戦

 日没を迎えるまでには十分な時間を残し、第一艦隊と第二艦隊は米水上打撃部隊を捕捉した。

 第三艦隊の勝利を信じ、米艦隊発見と同時に肉薄していたからこそ、この時間での会敵となったのだ。


 「敵は戦艦九隻に巡洋艦六隻、さらに駆逐艦が二四隻。中央に戦艦九隻。左右それぞれに駆逐艦一二隻と巡洋艦三隻。そのいずれもが単縦陣」


 制空権を完全に掌握していることから敵戦力の把握は容易だった。

 さすがに艦型までは分からないが、少なくとも戦艦はすべて旧式だ。

 それだけ分かれば十分だった。


 「目標、各艦の対応艦。九番艦に関しては第二艦隊にこれを委ねる」


 「大和」戦闘艦橋に伊藤第一艦隊司令長官の溌溂とした声が響き渡る。

 温厚あるいは沈着冷静との評判の提督も、日米の戦艦同士の砲撃戦ともなると興奮を隠しきれないようだ。

 しかも、こちらは観測機が使い放題なのに対し、制空権を失った米艦隊はそれが出来ない。

 もちろん、米艦隊も観測機を出すことは出来るが、そんなことをすればたちまち零戦の餌食になるだけだ。


 日本側圧倒的有利のなか、真っ先に突撃したのは第二艦隊だった。

 第二艦隊の角田長官は第三戦隊の四隻の高速戦艦のうち「金剛」と「榛名」を米戦艦九番艦撃破のために分派、残る艦はすべて突撃、突撃、突撃となった。

 それを見た米戦艦部隊の左翼に展開する三隻の巡洋艦と一二隻の駆逐艦が友軍戦艦部隊に近づけさせまいと阻止線を形成する。

 一方、右翼にある三隻の巡洋艦と一二隻の駆逐艦は第一艦隊が放った第五戦隊の四隻の「妙高」型重巡と「矢矧」率いる水雷戦隊の迎撃にあたるようだ。


 一〇隻の日本の戦艦と九隻の米戦艦が対峙する中、真っ先に干戈を交えたのは第二艦隊と左翼に展開する合わせて一五隻の米巡洋艦と米駆逐艦だった。

 勝負はあっけないほどにあっさりとついた。

 米側が三隻の「クリーブランド」級軽巡と一二隻の「フレッチャー」級駆逐艦だったのに対し、第二艦隊側は「比叡」ならびに「霧島」の二隻の高速戦艦とさらに八隻の重巡、それに一隻の軽巡に一二隻の駆逐艦だったから、あまりにも戦力が違い過ぎた。


 三隻の「クリーブランド」級軽巡は「比叡」と「霧島」、それに第四戦隊の三隻の「高雄」型重巡からの猛砲撃を受ける。

 米側の三六門の一五・二センチ砲に対し、日本側は一六門の三六センチ砲と三〇門の二〇センチ砲だからてんでお話にならない。

 いくら発射速度に優れる一五・二センチ砲といえども、その砲弾重量は三六センチ砲弾の一割に満たないのだ。

 一方の「比叡」と「霧島」は一五・二センチ砲弾をしたたかに浴びるもののさすがに戦艦だけあってバイタルパートを撃ち抜かれるようなことはなく、逆に三六センチ砲弾を一発当てるだけで「クリーブランド」級軽巡の戦力の過半を奪っていく。

 「高雄」と「愛宕」、それに「摩耶」は三隻がかりで「クリーブランド」級軽巡を文字通り袋叩きにした。

 その頃には米駆逐艦の命運も尽きていた。

 第七戦隊と第八戦隊の五隻の重巡に装備された四六門にも及ぶ二〇センチ砲のつるべ打ちに合い五隻が脱落、残る七隻に対して「能代」がタイマン、残る一二隻の甲型駆逐艦は二対一の戦いに持ち込んで米駆逐艦を一二・七センチ砲によって穴だらけにした。


 一方、右翼にあった同じく三隻の「クリーブランド」級軽巡と一二隻の「フレッチャー」級駆逐艦は第一艦隊第五戦隊の四隻の「妙高」型重巡と「矢矧」に率いられた水雷戦隊に対して健闘した。

 しかし、何度も激戦をくぐり抜けてきた日本の艦艇に比べ、艦も将兵もピカピカの一年生の米艦は練度においても戦場における駆け引きにおいても日本のそれには遠く及ばず、補助艦艇相手に出し惜しみなしの酸素魚雷飽和攻撃によって機先を制され、数の差が隔絶した後は文字通り袋叩きにされた。

 これら艦のうち、早々に離脱を試みたもの以外はすべて撃沈されてしまった。

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