第81話 帰ってきたぞ

 俺が乗る彩雲が「大鳳」に降りたった時、飛行甲板にいた発着機部員や整備員らは一様に驚く表情を見せていた。

 出撃した時と同様に、彩雲が傷ひとつないピカピカの状態だったからだ。

 俺が大小一二隻の空母を撃破した(といっても飛行甲板の先端を壊しただけだが)ことはすでに多くの者が聞き及んでいたから、米艦艇の対空砲火の熾烈さを知る歴戦の将兵らはきっと彩雲はボロボロになって帰投してくると思い込んでいたらしい。

 その彩雲がピカピカなのは俺が防殻魔法を発動させたからなのだが、そのことは彩雲に同乗していた操縦員と電信員しか知らないから無理もなかった。


 彩雲がなぜピカピカなのかといった説明は彼らに任せ、俺は艦橋へと足を運ぶ。

 これまでの経過を報告すべく小沢長官のもとへ参上した俺に、第一機動艦隊司令部員や「大鳳」艦長をはじめとした将兵らが最敬礼をもって迎えてくれた。

 そのあまりの仰々しさに俺はやめてくださいと懇願する。

 南雲長官のときもそうだったが、自分の親と同じくらいの年齢のおっさんに頭を下げられるのはたいへん居心地が悪い。

 なので、俺は話題を旋回する。


 「戦況はどうなっていますか」


 取ってつけたような俺の質問に、小沢長官がその表情に苦笑の色を浮かべながら直々に答えてくれる。


 「第一次攻撃隊はF6Fヘルキャット戦闘機を一五〇機以上撃墜、さらに第二次攻撃隊は七隻の『エセックス』級空母ならびに五隻の『インデペンデンス』級空母を撃沈破、それに護衛の巡洋艦や駆逐艦を二〇隻近く撃破したとのことです」


 「敵からの航空攻撃はありましたか? 護衛空母には戦闘機以外だと少数のTBFアベンジャー雷撃機が搭載されているだけですが、それでも二〇隻もあればまとまった数になります」


 「現在のところ、第一艦隊ならびに第二艦隊からは空襲を受けたという報告は入っていません。米軍も護衛の戦闘機無しに雷撃機を出すことは無謀だと考えたのかもしれません」


 小沢長官の言葉に、現在のところは俺の考えた通りに事が運ばれていることを確信する。

 敵機動部隊は壊滅し、護衛空母部隊はその艦上機の大半を失った。

 そうなれば、残るは敵の水上打撃部隊だけだ。


 「いかが考えますか。第一次攻撃ならびに第二次攻撃から戻ってきた機体の中で、即時再使用可能機で敵水上打撃部隊を攻撃するための第三次攻撃隊を編成することは可能ですが」


 小沢長官の質問に俺は少しばかり考える。

 この時期の米艦の対空砲火は熾烈だ。

 史実のマリアナ沖海戦でも帰還機の多くが大なり小なり損害を被っていたはずだ。


 「それは少し厳しいでしょうね。たぶん、帰還した機体のほとんどが被弾しているはずですから、第三次攻撃に使える零戦や天山はほんのわずかしかないはずです。少数機による攻撃だと被害ばかり大きくて戦果は僅少ですから割に合いません。

 それに、搭乗員の疲労も大きいはずです。なので、ここは第一艦隊と第二艦隊に頑張ってもらうのが得策だと思います」


 俺の言葉に小沢長官が大きくうなずく。


 「すでに第一艦隊と第二艦隊は敵機動部隊の残存艦艇の追撃に移行しています。敵の水上打撃部隊は行き足を奪われたこれら残存艦艇を守らなければなりませんから、必ず第一艦隊と第二艦隊の前に立ちはだかるはずです」


 敵機動部隊の壊滅によって少しばかり肩の荷が降りたのか穏やかな表情で語る小沢長官、その現状分析に俺もまた賛意を示す。

 それと、第一艦隊旗艦「大和」に座乗する伊藤長官にはぜひ頑張ってもらいたい。

 今回は沖縄特攻のようななぶり殺しではなく、戦艦同士によるまさに洋上決戦なのだから。

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