第77話 絶対優勢

 第一機動艦隊の各艦が今ではお馴染みとなった「トラ、トラ、トラ」の電文を受信する。

 ジュンの乗る彩雲から発せられたものだ。


 「我、奇襲に成功せり」


 つまり、米機動部隊の「エセックス」級空母ならびに「インデペンデンス」級空母はジュンの手によってそのすべてが発艦不能になるダメージを被ったということだ。

 危険をかえりみず、索敵機を装って単機で米機動部隊に殴り込んだジュンが最高の仕事を成し遂げてくれたのだ。

 その献身を、小沢第一機動艦隊司令長官は無駄にするつもりは無い。


 「第一次攻撃隊を発進させよ。続いて第二次攻撃隊も可及的速やかに出せ。マリアナに来寇した米艦隊を一気に叩く!」


 小沢長官の命令一下、「翔鶴」と「瑞鶴」、それに「加賀」から二個中隊、他の一四隻の空母からそれぞれ各一個中隊の合わせて二四〇機の零戦からなる第一次攻撃隊が次々に飛行甲板を蹴っていく。

 第一次攻撃隊に課せられた任務は戦闘機掃討、欧米で言うところのファイタースイープだ。

 米機動部隊の後方には護衛空母部隊が控えており、こちらは母艦自体は無傷だから間違いなく残存戦闘機をもって迎撃してくるはずだった。

 予想されるF6Fの残機は一五〇機乃至二〇〇機程度と考えられているので、最新の五四型といえども同等以上の戦力を出す必要があった。


 第一次攻撃隊が発進した後、第二次攻撃隊に出す零戦や天山がエレベーターで次々に飛行甲板に上げられてくる。

 第二次攻撃隊は零戦が一三二機に天山が二三四機の合わせて三六六機から成り、第一次攻撃隊とは違って零戦は二五番、天山は九一式航空魚雷を装備している。

 零戦のほうは狭い空母の飛行甲板から飛び立たなければならないので二五番となっているが、滑走距離が長くとれる陸上基地であれば五〇番の装備も可能だった。

 第二次攻撃隊のうち、甲部隊は最も北の空母群を、乙部隊のほうは南の空母群を、そして丙部隊と丁部隊は共同で中央の空母群を叩く。

 第一次攻撃隊ならびに第二次攻撃隊の合わせて六〇〇機を超える一大航空戦力を繰り出す一方、小沢長官は水上打撃部隊にも敵艦隊追撃を命じる。


 「第一艦隊と第二艦隊は敵水上打撃部隊を捕捉、これを撃滅せよ。その際、敵護衛空母に搭載されている雷撃機に注意せよ。

 護衛空母は現在のところ二〇隻が発見されており、雷撃機は最低でも一二〇機から最大で一八〇機程度は搭載されているものと思われる。第一艦隊と第二艦隊の上空を守るために第三艦隊から零戦を差し向けるが、念には念を入れておけ」


 直掩任務にあたる零戦は各空母一個中隊の合わせて二〇四機にのぼるが、空母部隊と水上打撃部隊の両方を守るには少しばかり数に不安が残る。

 このことで、第一と第二の両艦隊は対艦戦闘だけでなく対空戦闘にも留意してもらう必要があった。

 さらに、対潜警戒を厳にすることも命じる。

 これはジュンたっての依頼であり、理由は分からないがこの件に関しては珍しく執拗ともいえるほどにこだわっていた。


 一連の命令を出し終えた後、小沢長官は何事もなかったかのように腰を落ち着ける。

 だが、内心は冷や汗だらだらだった。

 ジュンが奇襲に成功してくれたからいいようなものの、もし米機動部隊が健在でそれらが第三艦隊とがっぷり四つに組んで戦うことになっていたとしたら、自分たちの空母は最低でも三分の一、下手をすれば半数以上を失っていたかもしれない。

 それほどまでに米機動部隊と護衛空母部隊を合わせた航空戦力は圧倒的だったのだ。


 「南雲さんがおしゃっていた通り、ジュンさん様様だな」


 十死零生とは言わないまでも、九死一生の任務にのぞみ、最高の結果を出してくれたジュンに対し、小沢長官は胸中で最大限の感謝を捧げた。

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