第75話 女神のチートの使いどころ

 二〇機の二式艦偵が高度数百メートルの低空飛行で米艦隊を探す中、三〇〇〇メートルという索敵には高すぎる高度で飛行する機体があった。

 帝国海軍が運用する艦上機の中で最高速を誇る偵察機彩雲。

 その中央の偵察員席で俺は広域感知魔法を働かせながら米艦隊の反応を探っていた。

 二〇機にもおよぶ二式艦偵はフェイク、もっと言えば彩雲から目を逸らせるための囮であり、本命は俺の乗る機体のみ。


 空母「大鳳」を発ってから一時間余り、海面に向けた広域感知魔法はその索敵範囲の広さもあって米艦隊の存在をあっさりとキャッチする。

 本来であれば魔族や魔物相手の戦いでレベルアップされるはずだった俺は、だがしかし数度にわたった連合国軍との戦いで図らずもそれを成し遂げていた。

 こちらの世界(時代?)に来た当時と比べ、広域感知魔法の索敵範囲は格段に広がり、放てる火炎弾や閃光弾の数も大幅にアップしている。

 そんな俺が感知した敵は四群。

 四〇隻近い艦隊の後方に二〇隻ほどの艦隊が三つ並んでいる。

 数が多いものは前衛の水上打撃部隊、数の少ないほうは三群からなる空母部隊とみて間違いないはずだ。


 俺は操縦員に頼んで右へと旋回、水上打撃部隊を迂回しつつ南から突き上げる進路をとってもらう。

 トラックを活動拠点とする単機のB24と誤認してくれれば御の字だが、米軍もそこまでは甘くはないだろう。

 さらに、迎撃に上がるF6Fのことも考えあわせ、高度をさらに高く取るようお願いする。

 彩雲は運動性能こそよろしくないが、しかし脚は速い。

 あっという間に最も南に位置する米空母群が視認出来る位置にまで到達する。


 それと同時に俺は彩雲全体を包み込むように防殻魔法を展開した。

 VT信管対策を怠るわけにはいかない。

 強度を高めた防殻魔法はさすがに魔力の消耗が大きいが、かといって無防備のまま単機で米艦隊に突っ込んでいけばいかに韋駄天の彩雲といえどもまず無事では済まない。。

 それと、防殻魔法を施したことでその範囲内の空気の流れが緩やかになることも大きなメリットだ。

 防殻魔法無しで、しかも五〇〇キロオーバーの機体で風防を開けつつさらに右手を突き出して火炎弾を飛ばすことは現実的ではない。

 風圧が凄すぎて火炎弾を撃ち出すどころか魔力を練ることすらも出来ないだろう。


 さらに俺は遠視魔法を利かせ、洋上に小さく見える艦艇を識別する。

 二隻の「クリーブランド」級軽巡に一二隻の駆逐艦、こちらはおそらく「フレッチャー」級だろう。

 それらが円陣を描く中に大小四つの平たい艦影が見える。

 そのうち大きい二隻は「エセックス」級、小さいほうの二隻は「インデペンデンス」級で間違いないはずだ。


 俺は操縦士に速度を上げてその艦隊上空を高速航過するよう指示する。

 すでに彩雲の高度は四〇〇〇メートルを超え、速度は六〇〇キロ近くになっているはずだが、俺の目は四隻の空母を捉えて離さない。

 米艦隊から高角砲弾が撃ち上げられてくる中、それを無視して俺は右手に四発分の自動追尾魔法を織り込んだ火炎弾のための魔力を練り込む。

 すでに広域感知魔法と防殻魔法、さらには遠視魔法を発動している。

 中でも広域感知魔法と防殻魔法は魔力をかなり消費する。

 レベルアップしたとはいえ、それでも今の俺が放てる火炎弾は上級モンスターを倒す威力であれば数発、中級のそれであれば十数発がせいぜいだろう。

 実際にはもっと多く放てるが、そうすると防殻魔法の力がどうしても弱くなってしまうし、なにより俺はまだ死にたくない。

 だから、目標は絞る必要があるし、無駄弾などもってのほかだ。


 俺は中級モンスターが倒せるレベルの魔力を練り込んだ火炎弾を四発、大小四隻の空母に向けて放つ。

 自動追尾魔法も織り込んだそれらは俺の意図した位置、つまりは飛行甲板前端、あるいはカタパルトの周辺に着弾する。

 上級モンスターならともかく、中級モンスターを倒す程度の火炎弾であれば空母を撃沈することは出来ないが、それでも飛行甲板の破壊は可能だ。

 そして、この時代の空母は艦首近辺の飛行甲板を破壊されると艦上機の発艦はほぼ不可能になるから、それはつまりは空母が無力化されたということだ。


 四隻の空母の撃破を確認すると同時に俺は操縦士に次の空母群に向かうよう指示する。

 ダメージコントロールに優れた米軍といえども飛行甲板前部に大穴を開けられ、そのうえ前端がめくれあがってしまえば、その復旧を一日や二日でやり遂げることは不可能なはずだ。


 「あと、二群」


 あと二回、同じことを繰り返せば米艦隊の洋上航空戦力を一掃することが出来る。

 ドイツから得た電装系や潤滑油のおかげで誉発動機が快調な彩雲はさらに加速する。

 彩雲の韋駄天のおかげで、俺は二つ目の空母群をすでにその視野に捉えていた。

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