第71話 第一機動艦隊

 俺が知る史実のマリアナ沖海戦と現状での大きな差と言えば、サイパンやテニアン、それにグアムに展開する海軍航空隊の充実ぶりを挙げることが出来る。

 ソロモンでの航空消耗戦を避けることが出来たのに加え、まともに戦える機体が零戦しかなかったのとは裏腹に、今では局地戦闘機紫電が戦列に加わっている。

 ここでの紫電とは三式戦闘機飛燕の空冷バージョンあるいは五式戦闘機の互換機といったところで、陸軍が欲しがる水上機や飛行艇などを提供する見返りとして譲り受けた(余りものの首無し)機体だ。


 「飛燕に金星載せたらええもん出来まっせ」


 と言う俺の進言を信じてくれた山本大臣と南雲連合艦隊司令長官が陸軍に対して有償譲渡を申し入れてくれたのだ。

 もちろん、メーカーのほうにも機体の増産要請等しかるべき根回しはやってくれている。

 互換機と言った理由は機銃をはじめとした装備が海軍仕様になっているからだ。

 その紫電は空母への離発着は出来ない代わりに基本性能はそのことごとくが零戦を上回る。

 当初は一三〇〇馬力を発揮する五〇系統の金星発動機を搭載していたが、現在では一五六〇馬力の六〇系統に置き換わっている。

 まあ、俺としては金星発動機のかわりに誉発動機を搭載すればどうなるのか非常に興味があったのだが、だがしかし設計も製造現場もいっぱいいっぱいのところで頑張っておられるので、さすがにこれ以上の負担をかけるわけにもいかず、このことは俺の胸の内にしまっておいた。


 攻撃機のほうも一式陸攻から誉発動機を搭載する銀河へと更新された。

 誉発動機のみならず、すべての航空機エンジンの泣き所だった電装系と潤滑油だが、日欧連絡線によってドイツから優秀なものが入手できるようになったことでその悩みも解消している。

 銀河もまたその恩恵にあずかり、史実とは比べものにならないくらいに稼働率が向上、少なからず性能アップも果たしている。


 だが、基地航空隊よりさらに大きく変わったのが母艦航空隊だ。

 その基幹となるのは空母と艦上機だが、それらは従来のそれよりも遥かに充実している。

 米艦隊との決戦を前に新編された第一機動艦隊に配備された空母は史実の九隻に対して実に二倍近い一七隻、艦上機の数も同様に二倍近くにのぼっている。



 第一機動艦隊


 第三艦隊

 甲部隊

 「大鳳」(零戦二四、天山二四、二式艦偵六、彩雲二)

 「翔鶴」(零戦四八、天山二四、二式艦偵三)

 「瑞鶴」(零戦四八、天山二四、二式艦偵三)

 「千歳」(零戦二四、九七艦攻三)

 軽巡「大淀」

 駆逐艦「秋月」「照月」「早波」「浜波」「沖波」「岸波」「朝霜」「早霜」「秋霜」「清霜」


 乙部隊

 「赤城」(零戦三六、天山二四、二式艦偵三)

 「飛龍」(零戦三六、天山一八、二式艦偵三)

 「蒼龍」(零戦三六、天山一八、二式艦偵三)

 「千代田」(零戦二四、九七艦攻三)

 軽巡「阿賀野」

 駆逐艦「涼月」「初月」「黒潮」「親潮」「早潮」「霞」「霰」「陽炎」「不知火」


 丙部隊

 「雲龍」(零戦三六、天山一八、二式艦偵三)

 「天城」(零戦三六、天山一八、二式艦偵三)

 「葛城」(零戦三六、天山一八、二式艦偵三)

 「龍驤」(零戦二四、九七艦攻九)

 重巡「青葉」

 駆逐艦「新月」「若月」「朝潮」「大潮」「満潮」「荒潮」「朝雲」「山雲」「夏雲」「峰雲」


 丁部隊

 「加賀」(零戦四八、天山二四、二式艦偵三)

 「隼鷹」(零戦三六、天山一二)

 「飛鷹」(零戦三六、天山一二)

 「瑞鳳」(零戦二四、九七艦攻三)

 「龍鳳」(零戦二四、九七艦攻三)

 重巡「衣笠」

 駆逐艦「霜月」「冬月」「村雨」「夕立」「春雨」「五月雨」「海風」「山風」「江風」「涼風」


 第一艦隊

 戦艦「大和」「武蔵」「長門」「陸奥」「伊勢」「日向」「山城」「扶桑」

 重巡「妙高」「羽黒」「那智」「足柄」

 軽巡「矢矧」

 駆逐艦「秋雲」「夕雲」「巻雲」「風雲」「長波」「巻波」「高波」「大波」「清波」「玉波」「涼波」「藤波」


 第二艦隊

 戦艦「比叡」「霧島」「金剛」「榛名」

 重巡「愛宕」「高雄」「摩耶」「熊野」「鈴谷」「最上」「利根」「筑摩」

 軽巡「能代」

 駆逐艦「雪風」「初風」「天津風」「時津風」「浦風」「磯風」「浜風」「谷風」「野分」「嵐」「萩風」「舞風」



 空母一七隻、戦艦一二隻、重巡一四隻、軽巡四隻、それに駆逐艦六三隻からなる一大機動艦隊だった。

 空母艦上機は常用機だけで八六六機、予備の機体を含めれば九〇〇機を超える。

 新しく加わった戦力で目ぼしいものは装甲空母「大鳳」とそれに三隻の「雲龍」型空母だ。

 特に「雲龍」型の三隻は俺の進言によっていずれも史実よりも早く建造に着手し、エンジンについては最初から製造困難な空母や巡洋艦用のものではなく数を揃えやすい「陽炎」型駆逐艦のものを流用させた。

 一方、その当時、起工されてさほど間が無かった改「鈴谷」型重巡の「伊吹」についてはこれの建造をさっさと取りやめさせていたから、その分だけ「雲龍」型空母に資材や人員を回せたことも大きかった。

 それと、史実よりも格段に海上護衛戦がうまくいっていることで必要物資の調達がスムースに成され、そのこともまた早期建造に大きく寄与している。

 その「雲龍」型空母はいずれも「飛龍」や「蒼龍」に比べて五万馬力近く機関出力が低下した。

 そのことで最高速度は低下したものの、それでも三二ノット近くを発揮出来るから運用については特に問題とはならなかった。


 それと、駆逐艦の数を揃えられたことも大きい。

 ソロモンにおける消耗戦が生起しなかったこと、さらに潜水艦対策の強化によって無用の損耗を抑えることが出来たのも大きな理由の一つだろう。

 万一、史実と同様に「アルバコア」や「カヴァラ」が襲来してきたとしても、そうそう後れをとることはないはずだ。


 第一機動艦隊はこれら戦力をもって太平洋艦隊を迎え撃つ。

 予想される敵の洋上航空戦力は正規空母と軽空母が合わせて一二乃至一三隻、それに二〇隻前後の護衛空母。

 それら搭載機の総数は第一機動艦隊を大きく上回る一四〇〇機。

 水上打撃戦力のほうは戦艦が一〇隻程度、さらに巡洋艦と駆逐艦が合わせて一〇〇隻ほどと見込まれている。


 その第一機動艦隊を指揮するのは第三艦隊司令長官を兼ねる小沢中将。

 洋上航空戦だけに限定すれば、その実績は「不敗の南雲」をも上回る。

 一方、二個ある水上打撃部隊のうち、第一艦隊は「大和」に将旗を掲げる伊藤中将、第二艦隊は伊藤中将と同期の角田中将が「比叡」でそれぞれ指揮を執る。

 敵は強大、だが俺には秘策があった。

 それはグラマンをもぶっちぎる韋駄天の機体があってこそ初めて成立するものだ。

 俺が待ちに待った存在、帝国海軍が誇る最新鋭偵察機「彩雲」。

 これこそがマリアナの、そして連合艦隊の命運を握るカギになるはずだった。

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