第67話 日米戦艦対決

 速力が著しく低下した、あるいは航行不能寸前となった四隻の「エセックス」級空母にとどめを刺すべく急進する第二艦隊の前に立ちはだかったのはミッドウェー島の防衛にあたっていた二隻の「アイオワ」級戦艦と四隻の巡洋艦、それに一六隻の駆逐艦からなる艦隊だった。

 同艦隊には「サウスダコタ」級戦艦の「マサチューセッツ」と「アラバマ」も加わっていたはずだが、その姿は無い。

 あるいは、どんなに頑張っても二七ノット程度しか出せない劣速の両艦を切り捨てることで、逆に友軍空母部隊を守るための阻止線を形成することに成功したのかもしれない。

 戦力は第二艦隊が優勢、だからと言って米戦艦部隊は戦いを避けることが出来ない。

 自分たちが逃げれば深手を負った四隻の「エセックス」級空母と彗星の爆撃によって大打撃を受けた十隻余の巡洋艦や駆逐艦が日本の水上打撃部隊によってめった打ちにされることが分かりきっているからだ。

 すでに四隻の「インデペンデンス」級空母が海面下に没し、さらに航行不能となった五隻の駆逐艦が撃沈処分されている。

 これ以上の損害はとてもではないが許容できないはずだ。

 だが、そんな米艦隊の窮状など、第二艦隊司令長官の南雲中将は忖度しない。


 「目標、『武蔵』敵戦艦一番艦、『大和』二番艦。第三戦隊目標敵巡洋艦。第四と第五ならびに第七戦隊と水雷戦隊は敵駆逐艦を撃滅せよ」


 南雲長官の溌溂とした声を聴きながら俺は戦艦「武蔵」の艦橋で戦況を見つめる。

 この人は、砲雷撃戦となるととたんに元気になる。

 洋上航空戦の時とはえらい違いだ。

 で、俺のほうはと言えば、実のところ昨夜からの働きづめでへとへと。

 なので、本音を言えば自室に引きこもって寝ていたい。

 だが、さすがに「大和」型と「アイオワ」級との一騎打ちが始まるというのであればそうも言っていられない。

 これを見逃すようなことがあれば、艦オタの敬称? は返上せねばなるまい。

 それと、昭和一八年後半のこの時期であれば「大和」型が「アイオワ」級に後れを取ることは無いはずだ。

 あと二、三年もすれば射撃管制システムの性能差の隔絶によって「アイオワ」級をみれば「大和」型は尻尾を巻いて逃げるしかなくなるが、現状では両者に顕著な差はない。

 そうなれば主砲口径と装甲厚で勝る「大和」型がむしろ有利。


 「壊れるなよ、方位盤」


 意図せずに吐いたつぶやきに俺はびっくりする。

 これまでそのことを思い出す機会があったはずなのに、それが無かったのはたぶん相手が格下だったからだろう。

 だが、今回は同格かあるいはそれ以上の「アイオワ」級。

 たぶん、それで思い出したのだ。

 方位盤の一件を。

 レイテ沖海戦の際、「武蔵」の方位盤が故障したのは有名な話だ。

 巷間言われるように被雷の衝撃ごときで故障したのであれば、それはもうホラーだ。

 戦闘機械として、まして六万トンを超える巨大戦艦で起こっていい話ではない。

 これまでのところ、「武蔵」も「大和」も方位盤の故障は発生していないので大丈夫かとは思うのだが、しかしこういった不具合は起こって欲しくない時に限って起こってしまうのが世の常だ。

 それと「大和」か「武蔵」かは忘れたが、射撃の際に艦の歪みを感じていたということを戦後に語っていた砲員がいた。

 艦に歪みがあれば遠距離砲戦はもちろん近距離砲戦での命中すらも覚束ない。

 まあ、当時の日本の工業力というか造艦能力なんてそんなものだから、たいして驚きは無いが、それでも自分が乗っている戦艦であれば話は違ってくる。

 俺はそれが与太話であることを願いつつ「武蔵」の第一射を待った。

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