第66話 ミッドウェーのターキーシュート
F6Fヘルキャット二四〇機にSB2Cヘルダイバー一二〇機、それにTBFアベンジャー一三二機の合わせて四九二機からなる史上最大の攻撃隊は、だがしかし日本艦隊の遥か手前の洋上で多数の零戦に捕捉された。
しかもその数四〇八機。
この時期、帝国海軍はすでにジュンの指導の下、航空管制を完全にものにしていた。
一方、米攻撃隊の先陣を切るのは一四四機からなるF6F戦闘機隊だった。
これら機体は本来であれば艦隊防空のための直掩任務にあたるはずだったのが、ハルゼー提督の攻撃全振り命令によって攻撃隊の露払いという役どころに変更されていたのだ。
そのF6Fに一三隻の空母から先発した一三個中隊一五六機の零戦が殴り掛かる。
ほぼ同数の機体が激突した空中戦は、意外にも零戦の一方的な勝利に終わる。
勝敗を分けたのは情報の有無だった。
零戦隊の搭乗員らがジュンの後知恵によってこの時期にF6Fが出現すること、さらに同機の長所や短所、それにおおまかな性能や取ってくるであろう戦術を事前に聞かされていたのに対し、F6Fの搭乗員のほうは零戦五三型を従来の二一型かあるいは三二型のつもりで戦いを挑んでしまった。
栄発動機から金星発動機に換装した零戦五三型の加速と上昇力は二一型や三二型とは別物だ。
最高速度こそ三二型とさほど変わらないものの、戦闘速度に至るまでの加速は太いトルクのおかげで一枚も二枚も上手だ。
そんなことを知らずにF6F隊は零戦に戦いを挑んでしまった。
低速旋回性能しか能のない脆弱な機体をそれこそ鎧袖一触で叩き潰してやろうと考えていたF6Fの搭乗員は、だがしかし上昇力や加速に優れた零戦に翻弄されてしまう。
もちろん、冷静に考えれば攻撃力や防御力、それに最高速度といった総合性能は二〇〇〇馬力級のF6Fのほうが一三〇〇馬力の零戦五三型よりも優れている。
だが、動揺したF6Fの搭乗員はそのことに思い至る余裕が無い。
つまりはF6Fの強みを生かした戦いに持ち込むことが出来ない。
一方、実戦経験豊富で狡猾な零戦の搭乗員はF6Fに生じた隙を突きまくる。
その零戦の息をつかせぬ猛攻の前にF6Fは劣勢を立て直せない。
なにより、それが出来る人材がいない。
二度にわたるミッドウェー海戦や珊瑚海海戦であまりにもベテランを失い過ぎてしまったのだ。
そのことで、その多くが訓練エリートで固められたF6Fの搭乗員たちでは、残念ながら零戦の手練れたちを相手どるにはあまりにも実戦経験が足りなさ過ぎた。
零戦に対して最初はわずかに劣勢だったはずの数の差は、あっという間に顕著な差となり、その後は一方的となった。
だが、悲劇は前衛のF6F隊だけで終わらなかった。
その後に続く九六機のF6Fと一二〇機のSB2C、それに一三二機のTBFアベンジャーもまた二五二機の零戦の迎撃に遭う。
直掩のF6Fは同数の零戦を引き付けるのが精いっぱいで、SB2CやTBFの護衛にまで手が回らない。
一五〇機あまりの零戦に繰り返し攻撃を受けた一二〇機のSB2Cと一三二機のTBFは貫徹力の高い二号機銃から吐き出される二〇ミリ弾をしたたかに浴びて次々にミッドウェーの海面へと墜ちていく。
いくらSB2CやTBFが打たれ強いといっても、護衛の戦闘機無しではどうにもならない。
日本側からみれば胸のすくような、米側からみれば悲惨極まりない光景がそこかしこで展開される。
奇跡的に生き残った米搭乗員の一人は後にSB2CやTBFが面白いように撃ち墜とされていくその様子を「ミッドウェーのターキーシュート」と自嘲を込めて語ったという。
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