第51話 神の眷属情報

 「『インドミタブル』と『フォーミダブル』、それに『イラストリアス』の三隻が被弾しただと」


 怪訝な表情のサマーヴィル提督に参謀の一人が報告を続ける。


 「三隻の空母ともに雷撃隊が発進する直前に攻撃を受けたとのことです。このため、いずれの空母ともに飛行甲板に並べていたターポンが誘爆、大炎上しており、現在は消火に全力を挙げているそうです。詳しい被害状況についてはまだ入ってきておりません」


 詳しい被害報告を聞くまでもない。

 いかに防御力が高い装甲空母といえども、魚雷を抱えた多数の雷撃機が飛行甲板上で誘爆すれば、その時点で戦闘力を喪失するはずだ。


 「三空母に被害をもたらした敵の攻撃は分かっているのか」


 「空母部隊の上空、しかもかなりの高空にあった水上機からの攻撃のようで、同機体の存在する位置からいきなり三発の赤い光弾が三隻の空母を襲い、それが原因で雷撃機の誘爆が発生したそうです」


 サマーヴィル提督の疑問に、いかにも答えにくそうな表情の参謀が空母部隊からの報告を伝える。


 「話を聞けば三発で三隻の空母を仕留めたことになるが、にわかには信じられん。百発百中の攻撃など神か悪魔の所業だぞ」


 そう言いつつ、サマーヴィル提督は米国からもたらされた情報を思い出す。

 第二次ミッドウェー海戦の際、四隻の米新鋭戦艦は低空を飛行する水上機と思しき機体から赤い光弾による攻撃を受け、そのいずれもが艦橋トップにあるレーダーや光学測距儀といった射撃管制システムの枢要部を破壊されたという。

 同海戦と今回とでは、高空と低空の違いはあるが赤い光弾、そして異様な命中率の高さといった共通点がある。


 「先ほど、司令長官が神か悪魔の所業とおっしゃられましたが、その関連として日本海軍にジュンと名乗る神の眷属が降臨したという情報が米軍からもたらされています。そのジュンという者は、米機や米艦相手に大暴れしただけでなく、軍医が見放すような重傷者も神の力によって治癒したとか。

 さらに、四隻の米戦艦の艦橋トップへの攻撃もこの者が関与しているそうです。ただ、あまりに荒唐無稽な話でしたので、負け続きの米軍がでっち上げた与太話かと考えていたのですが、あるいは三隻の空母の被弾はその者による仕業だと考えれば辻褄が合います」


 「その報告書は私も読んだ。最初はこのようなバカげた報告書をつくるような海軍だから負けたのだと思っていたが、あるいはそうではないのかもしれん。

 もし米軍の報告書が正しかった場合、そのジュンと名乗る者が次に仕掛けてくるとすれば・・・・・・」


 結論を言わず、サマーヴィル提督は参謀をみやる。

 サマーヴィル提督の意図を忖度した参謀が即答する。


 「ジュンは間違いなく戦艦の目を潰しに来るでしょう。やつが狙うのは第二次ミッドウェー海戦の時と同様、戦艦の艦橋トップです」


 参謀の答えに首肯でもって賛意を示したサマーヴィル提督は命令を下す。


 「対空戦闘準備だ。上空にある水上機はどんな機体であれ撃ち墜とせ。絶対に戦艦に近づけさせるな!」

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