第50話 英空母炎上
一二隻の小型艦艇が描く輪形陣の中央に三隻の空母の姿が見える。
三隻ともに護衛艦艇より一回りも二回りも大きい。
つまりそれらはいずれも正規空母だということだ。
その三隻の空母の飛行甲板後部にはそれぞれ十数機の機体が並べられている。
その隙間を縫うように大勢の人間が動き回っている。
高角砲はともかく、機銃や機関砲からの有効射程圏外である五〇〇〇メートル上空から遠視魔法と暗視魔法を併用する俺は、三隻の空母が着々と攻撃隊の発進準備を整えていくのを俯瞰していた。
史実を知る俺にとって、東洋艦隊が夜間雷撃を企図していることはなんの不思議でもなかった。
そうであれば、現在飛行甲板上にある機体はいずれも燃料タンクを満タンにし、さらに照明弾かあるいは魚雷を抱えている状態だろう。
状況を把握した俺は、右手に火炎弾三発分の魔力を練り込んでいく。
中級モンスターを屠る程度の火弾なので飛行甲板装甲を貫くことは出来ないが、薄い軽金属で造られた飛行機がこれを食らえば無事では済まない。
そんな俺に、捨てたはずだったためらいという感情が脳裏をよぎる。
俺は第一次ミッドウェー海戦の時に、すでに人を殺す覚悟は決めていたはずだし、実際に米将兵をこの手にかけた。
だが、今回は少しばかりその数が多すぎたのかもしれない。
今、俺が火炎弾を放てば三隻の空母の飛行甲板で作業する整備員や兵器員、それに発着機部員らに間違いなく死傷者が生じるはずだ。
それも大勢。
すでに一〇〇人近い米将兵をこの手にかけてきたが、今回で間違いなく三桁、下手をすれば四桁の人間を殺すことになるかもしれない。
人としての理性が少しばかりのためらいを惹起させたまま、それでも構わずに俺は火炎弾を放った。
必中を期すために自動追尾魔法を施したそれは、立て続けに英空母の飛行甲板、それも並べられた艦上機の先頭の機体を直撃する。
基本的に空母の飛行甲板は一方通行、先頭機を潰してしまえば後続の機体は発進出来ない。
後は劇的だった。
三隻の英空母は一隻の例外もなく燃え上がり、ガソリンかあるいは魚雷が誘爆しているのか、時折大きな爆炎の花を咲かせる。
上空から見れば海上に松明が三つ発生しただけに見えるが、その中で英将兵たちが次々に焼け死んでいることは疑いようがない。
被弾した英空母については沈没する艦は無いはずだ。
強靭な飛行甲板装甲はきっと彼女たちを守り切るはず。
だが、飛行甲板上で盛大に繰り広げられている魚雷やガソリンの誘爆は一方で船体や艦上構造物に大ダメージを与えたはずだ。
いずれの艦も長期離脱は免れないだろう。
突然の空母炎上に周囲の護衛艦艇の動きが慌ただしくなる。
半数が空母に駆け寄り、残る半数が赤い火弾を吐き出した零式観測機目掛けて対空砲火を撃ち上げてきた。
操縦士は回避と同時に事前の手はず通り機首を戦艦部隊へと向ける。
三空母撃破の顛末は付近にいる「利根」か「筑摩」の零式水偵が報告することになっている。
危険な任務に付き合ってくれた操縦士に礼を言い、俺はすぐに意識を切り替えた。
ある意味で、これからが本番だった。
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