第二次インド洋海戦

第45話 主力空母無し

 昭和一八年二月、連合艦隊は帝国陸軍ならびに同盟国ドイツの要請に基づき、インド洋進攻作戦を発動、第二艦隊ならびに第三艦隊に出撃を命じた。

 同作戦の目的はインド洋の制海権を確保し、英印航路を封鎖することで英国の戦争経済に打撃を与えようというもの。

 また、同時にそれは対ソ支援の大動脈であるペルシャ回廊や、あるいは中国支援の援蒋ルートを断ち切るといった副次的効果も期待出来るものでもあった。

 それと、もし日本艦隊が東洋艦隊撃滅に成功した場合、ドイツ軍とイタリア軍は地中海ならびにエジプト方面で攻勢をかけ、スエズ打通を目指す手はずになっているという。

 まあ、ドイツとイタリアが言うことなのでどこまで信用していいのかは分からないのだが、それでも戦争遂行にドイツの兵器や工作機械、なによりその先進技術が日本にもたらされれば海軍も陸軍も大きく質的戦力アップを図ることが出来る。

 俺としても、この作戦に反対する理由は無かった。



 第三艦隊

 「隼鷹」(零戦三六、九七艦攻九、二式艦偵三)

 「飛鷹」(零戦三六、九七艦攻九、二式艦偵三)

 「龍驤」(零戦二四、九七艦攻九)

 「瑞鳳」(零戦二四、九七艦攻三)

 「龍鳳」(零戦二四、九七艦攻三)

 重巡「利根」「筑摩」

 軽巡「川内」

 駆逐艦「秋月」「照月」「陽炎」「不知火」「霞」「霰」「朝雲」「山雲」「夏雲」「峰雲」「朝潮」「大潮」「満潮」「荒潮」


 第二艦隊

 戦艦「武蔵」「大和」「長門」「陸奥」

 重巡「高雄」「羽黒」「熊野」「鈴谷」「最上」

 軽巡「那珂」

 駆逐艦「雪風」「初風」「天津風」「時津風」「浦風」「磯風」「浜風」「谷風」「黒潮」「親潮」「早潮」

 軽巡「神通」

 駆逐艦「野分」「嵐」「萩風」「舞風」「秋雲」「夕雲」「巻雲」「風雲」「長波」「巻波」「高波」



 空母五隻に戦艦が四隻、それに巡洋艦が一〇隻に駆逐艦三六隻の合わせて五五隻からなる大艦隊だった。

 このうち、第二艦隊のほうは四隻の「金剛」型戦艦と重巡「愛宕」ならびに「妙高」がミッドウェーで被った損傷修理のために今作戦への参加を見送っている。

 これら六隻の有力艦が抜けた穴を埋めるために連合艦隊は第二次ミッドウェー海戦と同様、第一艦隊から第一戦隊を臨時編入し、さらに第三艦隊からも複数の駆逐艦を送り込むなどして戦力を増強している。


 その一方で、第三艦隊には主力となるはずの正規空母の姿が見当たらない。

 これは、戦力に劣る東洋艦隊を誘い出すための措置で、「赤城」をはじめとした六隻の正規空母は英国や米国のスパイに分かりやすいよう、目立つ場所に係留したり、あるいは派手に訓練したりしていた。

 さらに、「鳳翔」や「大鷹」型空母も米軍の耳目を集めるために活発に動き回り、こちらも訓練や南方戦域への航空機輸送などに携わっている。

 また、「伊勢」や「日向」、それに「山城」や「扶桑」といった第二戦隊の四隻の戦艦はミッドウェー海戦以降、日本各地の造修施設に引きこもっており、そのことは米国も掴んでいるはずだった。

 つまり、日本のすべての正規空母と戦艦の三分の二は日本本土にあることを喧伝しているようなものであり、それはつまりは東洋艦隊に対する挑発でもある。


 一方、出撃した側の第二艦隊と第三艦隊側もそのことは承知しており、東洋艦隊は必ず自分たちの前に現れるという前提で行動していた。

 これらのうち、航空戦の主役となるのは第三艦隊だが、その五隻の空母に搭載された艦上機は常用機が一八三機でそのうちの実に八割近くが零戦で固められている。

 また、これら零戦は従来の三機一個小隊編成ではなく、四機一個小隊となり最小戦闘単位を二機に変更している。

 零戦が多いということは、逆に言えば第三艦隊の空母には対艦攻撃能力を持つ機体が少ないということでもある。

 九九艦爆の姿は一機も無く、九七艦攻も全体でわずかに三三機でしかない。

 つまり、帝国海軍は洋上航空戦よりもむしろ水上艦艇による砲雷撃戦によって雌雄を決する腹積もりなのだ。


 その水上砲雷撃戦の主力となる第二艦隊には南雲中将が、空母部隊の第三艦隊は小沢中将が指揮を執り、全体指揮は南雲中将がこれを執る。

 そして、俺は新たに連合艦隊旗艦となった戦艦「武蔵」に乗り込んでいる。

 昨年のインド洋海戦から一〇カ月あまり、英国は増強した東洋艦隊主力をもって第二艦隊と第三艦隊の前に立ちはだかるだろう。

 その基幹戦力は戦艦が七隻に正規空母が三隻と見積もられている。

 両軍に顕著な戦力差が無い以上、日英艦隊の激突は必至だった。

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