第36話 ミッドウェー夜戦
第二艦隊と敵の水上打撃部隊が接触する少し前、俺は従兵の案内で「大和」後部に移動、そこで零式観測機の後席におさまった。
そのわずか後、俺を乗せた零式観測機はカタパルト発進、ミッドウェーの夜空へと舞い上がる。
「大和」艦載機隊の中で最高の腕利きが操縦するなか、俺は遠視魔法と暗視魔法を発動、零式観測機の後席で闇夜の空から日米両艦隊を俯瞰する。
第二艦隊の他の戦艦や重巡からも夜間砲雷撃戦に備えて艦載機が次々に発進、近傍海域上空を発動機の音で満たしていく。
艦載機の発進は着弾観測あるいは空の上から味方に貴重な情報を送ることもそうだが、砲戦時における損傷回避、それになにより可燃物撤去という意味合いも大きい。
言葉は悪いが、俗に言う厄介払いだ。
だが、このような状況の中で零式観測機が使えるのももってあと二年といったところだろう。
昭和一九年になれば夜戦型のF6FヘルキャットやP61ブラックウィドウといったレーダーを搭載した機体が登場する。
低速で弱武装、そのうえ防御力が貧弱なうえに電子の目を持たない零式観測機など彼らにかかればひとたまりもない。
だが俺は、そんな今はどうでもいいような雑念を振り払い、改めて米艦隊の陣形を確認する。
米艦隊の隊列は中央に四隻の戦艦と六隻の巡洋艦、さらに前衛に一六隻の駆逐艦。
巡洋艦はいずれも大型で、重巡でなければ「ブルックリン」級軽巡かあるいは「クリーブランド」級軽巡といったあたりだろう。
米艦隊の狙いは、戦艦や巡洋艦が支援砲撃する中、駆逐艦部隊を突っ込ませて第二艦隊を側面から攪乱させるつもりなのかもしれない。
その米艦隊は必ずしも日本艦隊を撃滅する必要は無い。
ミッドウェー島に対する艦砲射撃を妨害さえ出来れば、後は日が昇った段階で同島の基地航空隊が始末をつけてくれる。
米艦隊としては日本艦隊を引っ掻き回して時間稼ぎをすれば事足りるのだ。
時間は米側に味方する。
だからこそ、まずは先制攻撃だ。
「閃光弾!」
米艦隊上空に向けて俺は特大の光の塊を放つ。
ほんとうはフラッシュナンタラカタラといったそれらしい和製英語を叫んで発動したかったのだが、今のご時世では英語は使わないほうが無難だろう。
俺の放った閃光弾は米艦隊の上空で煌々と、そして落下することもなくその効果を発揮する。
本来の閃光弾は光を嫌う闇属性のモンスターに対抗するために異世界人が編み出した魔法だ。
俺が放つそれは昼間の太陽ほど明るくはないが、それでも月明かりよりははるかにその光量は大きい。
それを見た米艦隊の動きは迅速だった。
突然現れた正体不明の光から逃れるべく、速度を上げつつ第二艦隊に艦首を向ける。
一方的に姿をさらしていては不利だと判断、当初の予定を変更して早期決戦に切り替えたのかもしれない。
「敵艦隊転舵、駆逐艦群を先頭にして速度をあげつつそちらに向かいます」
俺は無線機に怒鳴り込むようにして米艦隊の動きを「大和」に伝える。
もちろん、他の艦載機も同じように報告しているのは分かっていたが、それでも俺はそのことを告げずにはいられなかった。
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