第11話 爆撃隊撃滅

 一七機の「ヨークタウン」爆撃隊はそのすべてが爆弾を抱えているわけではなかった。

 本当かどうかは俺は知らないが、ものの本によれば同隊のうちで三割ほどの機体が発艦後にトラブルあるいはアクシデントによって爆弾を誤って投下してしまったらしい。

 その機体が爆弾を抱えている仲間を守るべくこちらに機首を向けてくる。

 その様子を見た「加賀」隊の七機の零戦のうちの三機がそれらに立ち向かう。


 急降下爆撃機であるSBDドーントレスはあらゆる面で戦闘機である零戦の敵ではない。

 速力、旋回格闘性能どれをとっても零戦のほうが遥かに上回る。

 それでもSBDが機首に装備する一二・七ミリ機銃は防御力が脆弱な零戦にとっては剣呑極まりない脅威だ。

 まともに一連射を食らえばよほど当たりどころがよく無い限り戦闘力を喪失、下手をすれば撃墜されてしまう。

 さすがに無視は出来ない。

 零戦が七機から四機に減ってしまうのは痛いが致し方なかった。


 三機の零戦が爆弾無しのSBDに相対する一方、俺が乗る一三試艦爆と四機の零戦は爆弾を抱えているSBDに追いすがる。

 俺は操縦員にSBDの真下に少しばかり距離を開けてもぐり込むよう指示する。

 その間に俺は自動追尾魔法を付加した火炎弾を発動させるべく魔力を練り込む。

 そして、風防を開け、爆弾を抱え速度ガタ落ちのSBDに対して火炎弾を撃ち込んだ。

 狙ったのは先頭を行く機体、そしてその腹に抱えた爆弾。

 俺の火炎弾は狙い通りにその爆弾に命中、空中に大きな死の花を咲かせる。

 一〇〇〇ポンド爆弾の爆発威力はすさまじく、後続機は少なからず機体を揺さぶられたようだ。


 そんな敵編隊の乱れを「加賀」零戦隊は見逃さない。

 四機の零戦は後ろ上方からSBDに対して次々に二〇ミリ弾を撃ち込む。

 上から零戦にかぶられ、下から火炎弾を突き上げられてはSBDもたまったものではない。

 一二乃至一三機あったSBDは初撃で半数近くを撃墜される。

 あとは残敵掃討のようなものだった。

 一三試艦爆と四機の零戦は一切の容赦もなく短時間のうちに残るすべてのSBDを血祭りにあげていった。


 全機撃墜を確認した俺は「飛龍」隊と「蒼龍」隊に委ねた「エンタープライズ」隊の生き残り、それと史実では一航艦に接触を果たせなかった「ホーネット」爆撃隊あるいは戦闘機隊がこちらに来ても対応できるよう、操縦員に一三試艦爆の高度を上げるよう指示する。

 四機の零戦、それに最初に分離した三機もそれに加わる。

 俺は感知魔法を発動させて周辺空域をサーチ、南からこちらに向けて十数機の機体が近づいてくるのを確認する。

 「飛龍」隊ならびに「蒼龍」隊の阻止線を突破したSBDであればもう一合戦だ。

 最初ゴマ粒だったそれらは、やがて飛行機の形を成す。

 機体形状がはっきりしてくるのに従い、それらが「飛龍」と「蒼龍」の零戦隊であることが分かった。

 二倍近い数の「エンタープライズ」爆撃隊を相手取った彼らだが、困難な任務にもかかわらず見事に結果を出してくれたのだ。

 そして、俺の感知魔法はそれ以外に一航艦に接近してくる機体を認めなかった。

 つまり、「ホーネット」爆撃隊と同戦闘機隊は史実と同樣に一航艦を発見することは出来なかった。

 ひとまず一航艦は当面の、あるいは最大の危機を脱した。

 やるべきことはまだ残ってはいるものの、それでも俺は大きく安堵の息を吐かずにはいられなかった。

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