第10話 迎撃戦開始

 低空域から侵入してくるであろう敵雷撃機にはもっぱら九九艦爆が、敵の護衛戦闘機などそれ以外の機体には第一次攻撃隊に参加しなかった零戦が対応。

 難物のヨークタウン戦闘機隊、つまりサッチ少佐のチームには同じ少佐である板谷隊長直率の「赤城」戦闘機隊第一中隊に対応させるつもりだが、うまく会敵できるかどうかは実のところ運次第といったところだ。

 俺のほうはといえば、「蒼龍」から呼び寄せてもらった一三試艦爆の後席に搭乗、第一次攻撃隊に参加した「飛龍」と「蒼龍」、それに「加賀」所属の零戦を率いて第一航空艦隊の撃破を企図する「ヨークタウン」爆撃隊と「エンタープライズ」爆撃隊を迎え撃つ。

 西進してくる「ヨークタウン」隊は二〇機足らず、南から突き上げてくる「エンタープライズ」隊は三〇機ほどで、脅威度はもちろん「エンタープライズ」爆撃隊のほうが高い。

 史実では「エンタープライズ」隊は「赤城」と「加賀」に致命の一撃を与えている。

 だからこそ、「エンタープライズ」隊は真っ先に潰さなければならない。


 俺が率いる第一次攻撃に参加した零戦。

 これらは作戦開始時には三六機あったものの、板谷少佐の「赤城」隊がサッチ隊への対応のために抜け、さらにミッドウェー島上空での空中戦によって失われたり損傷したりした機体があったために現在は二〇機あまりにまでその数を減じている。

 感知魔法によってすでに「エンタープライズ」隊と「ヨークタウン」隊の位置と進路、それに高度は把握していた。

 俺は前席の操縦員に指示し、「エンタープライズ」隊が進撃してくる方向に機首を向けてもらう。

 そして、その方角に向けて火炎弾を放つ。

 それを合図に「飛龍」隊と「蒼龍」隊の零戦が加速、彗星を追い抜いて我先にとまだ見ぬ「エンタープライズ」隊に突っかかっていく。

 「飛龍」隊と「蒼龍」隊の零戦に対して「エンタープライズ」隊のほうは二倍の数の急降下爆撃機を擁するが、零戦とSBDドーントレスとの機体性能と搭乗員の技量の差を考えればまず阻止に失敗する心配は無いはずだ。


 「飛龍」隊ならびに「蒼龍」隊と「エンタープライズ」隊とのエンゲージは確実だと確信した俺は操縦員に頼んですぐさま一三試艦爆の機首を北東へと向けてもらう。

 レスリー少佐率いる「ヨークタウン」爆撃隊は俺と「加賀」隊の七機の零戦が担当する。

 ミッドウェー海戦における「ヨークタウン」爆撃隊は、史実では「蒼龍」を沈没に追いやった、米側から見れば殊勲の爆撃隊だ。

 この爆撃隊を見逃せば、史実のように格納庫に爆装した機体があろうがなかろうが防御力に難のある「蒼龍」が致命傷を食らう公算は大きい。


 「一時の方角へ、高度はこのままで構いません。それと、すみませんが急いで下さい」


 意思を確実に伝達するために俺は魔法を使って操縦員の脳内に直接進路と高度を指示する。

 操縦員は少しびっくりした様子だったが、それでも事前に俺が神の眷属であると伝えられていたせいか、さほど動揺した様子はうかがえない。


 「了解、飛ばします!」


 操縦員の言葉から一拍置いて一三試艦爆が加速を開始する。

 試作機にあるまじき戦場でのフルスロットル。

 それでも一三試艦爆は駄々をこねることもなく風を切り「ヨークタウン」隊を捕捉すべくミッドウェーの空を飛翔する。

 「加賀」隊も遅れず追求している。

 ミッドウェー海戦最大の山場、ここが正念場だった。

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