第8話 決意の殺意

 歴史の、というか戦史の勉強はしておくものだなとつくづくそう思った。

 俺は艦オタであって、ミリオタあるいは歴史オタではないが、それでもミッドウェー海戦のような超有名な戦いはかなり細かいところまで知っているつもりだ。

 だが、一方で俺が得た知識のネタ元はそのほとんどが一次資料ではなく、ネットだったり商業誌だったりするのでどこまで正確なのかは分からない。


 今は現地時間の午前七時。

 ネットや商業誌の情報が真実であれば間もなくミッドウェー基地から飛び立った六機のTBFと四機のB26が先鋒として姿を現すはずだ。

 この攻撃を皮切りに、第一航空艦隊はミッドウェー基地と米機動部隊から発進した航空機による執拗な攻撃を受け続け、最終的には米機動部隊が放った急降下爆撃機によって「赤城」と「加賀」、それに「蒼龍」が火だるまにされてしまうことになる。


 だが、今回はそうはさせない。

 俺は感知魔法を発動させて米軍機をサーチする。

 感知魔法は術者自身が魔導波を発信し、その反射の手応えを読み取る魔法だ。

 女神が俺に植え付けてくれた記憶あるいは情報によれば、感知魔法の捜索エリアは一般的な魔法使いであればせいぜい数十メートル程度。

 だが、一方で女神のチートをもらった俺であれば数十キロは余裕で、そのうえ対象の形状を読み取ることも出来る。

 特化型を選択した者は万能型の俺に比べてさらに長距離サーチが可能で、そのうえ読み取り精度も格段に高いらしい。

 数十キロといえば出来の良くない対空電探並みではあるものの、何も無いよりは遥かにマシだ。


 やがて、俺は「赤城」に向かってくるはずのB26を感知する。

 そして、火炎弾を発射できるよう右手に魔力を込める。

 俺が地味女神からもらった万能型の魔法スキルは本来であれば人々を魔王軍から守るために与えられたチートだ。

 だが、今俺がやろうとしていることはその真逆。

 魔法を使ったまごうことなき人殺し。

 それでも、俺は自身と一航艦の将兵の命を守るために、それとともにその力を一航艦司令部員たちに認めさせるためにB26を墜とす。

 ベティがこのことを知ればどう思うだろうか。

 自分が与えた力を、よりにもよって人殺しに使うのだから怒り心頭に発するのは間違いないだろう。

 あるいは女神に対する反逆者として俺を始末しようとするかもしれない。

 だが、その時はその時だ。


 魔導波の反応がどんどん強くなる。

 B26が至近まで迫っているのだ。

 そのB26には一機あたり七人の搭乗員がいる。

 二機墜とせば一四人、三機墜とせば二一人。

 立派な大量殺人だ。

 だが、俺に迷いは無い。

 そもそもとして、これは俺を異世界ではなく昭和一七年の過去に飛ばしたベティの責任だ。

 ある意味、俺は降りかかる火の粉を払い落とすために魔法を発動するのに過ぎない。

 それと、俺の中でミッドウェー海戦ほど悔しい戦いは他に無いし、なにより俺はトラックに轢かれて一度死んだ身だ。

 ベティには悪いが好きにやらせてもらおう。

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